安倍政権は新成長戦略の柱である「ローカル・アベノミクス」において、地方と中堅・中小企業の活性化を日本経済底上げの絶対条件と位置づけた。中小向け支援策も打ち出されているが、旺盛な成長意欲を持つビジネスオーナーたちがいま何よりも渇望しているのは、自社の成長への道筋をはっきりと描くことだろう。その答えを探る「未来をつくるイノベーション」シリーズ第2回は、サイバーダインの山海嘉之社長とオリックス・リビングの入江徹氏に「ロボットビジネスの可能性と成長戦略」について聞いた。

革新的サイバニックシステムで寝たきりゼロ実現に挑戦する

 2015年11月25日、日本初のロボット治療機器として厚生労働省から医療機器承認されたのは、世界初のサイボーグ型ロボット「ロボットスーツHAL®」の医療モデル。HAL医療用(下肢タイプ)は、筑波大学発のベンチャー企業サイバーダインが開発した。筋ジストロフィーやALSなどの進行性の神経筋難病患者の歩行機能を改善し、進行抑制治療効果が治験によって確認され薬事承認された。

筑波大学大学院 教授
サイバニクス研究センター センター長
内閣府ImPACT革新的研究開発推進プログラム プログラムマネージャー
CYBERDYNE(株) 代表取締役社長/CEO
山海嘉之氏
1958年生まれ。87年、筑波大学大学院工学研究科修了。工学博士。日本学術振興会特別研究員、筑波大学助教授、米国ベイラー医科大学客員教授を経て現職。サイバネティクス、メカトロニクス、インフォマティクスを中心に脳・神経科学やロボット工学、生理学などを融合複合した新学術領域「サイバニクス」を創成し、2004年CYBERDYNE設立(14年3月東証マザーズ上場)。世界初のサイボーグ型ロボット「ロボットスーツHAL®」の社会実装を力強く推進中。

 HALの最大の特徴は、装着者とロボットを機能的に一体化することができる点だ。身体を動かそうとする際に脳から脊髄を通じて筋肉に送られる信号をHALが捉え、装着者の身体と一体となって動作を実現することができる。すると実際の動きに伴う感覚系の情報が脳へフィードバックされて、身体を動かすために必要な指令信号の出し方を脳が学習する。疾患や加齢によって身体機能が低下した方であっても、これを繰り返すことで機能改善し、HALなしでも動けるようになるという。

 1991年、当時は筑波大学の若手研究者であったサイバーダインの山海嘉之社長は、HALの原理を創り出すところから基礎研究開発を始めた。

「高齢化が進めば歩行困難などの障害を抱える人は増えるのに、それを支える側は減少していく一方という未来が見えていました。テクノロジーは社会課題を解決して、人や社会の役に立ってこそ意味がある。介護/治療される側の身体機能を少しでも改善して、介護/治療する側の負担を減らすためにHALは生まれました」

 立ち上がれるかどうか、歩けるかどうかで医療・介護の費用と負担は大きく変わるが、山海社長によれば、サイバニクスをコア技術とした革新的サイバニックシステムを研究開発し社会実装を推進することにより、それらの壁を乗り越え、重介護ゼロ社会を実現する、という。これは、内閣府ImPACTプログラムのPM(プログラムマネージャー)として取り組む課題でもある。

 2025年、日本は3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上という超高齢社会を迎える。医療・介護費用の急激な増加と、施設や人手の不足は避けられない見通しで、その解消に役立つロボットへの期待が高まっている。

 HALの実用化はその先鞭をつける動きといえるが、実は欧州ではいち早く2013年に世界初のロボット治療機器として医療機器CEマーキング認証を取得し、ドイツでは脊髄損傷や脳卒中の患者治療に公的労災保険も適用されている。HALが生まれた日本で認証が遅れた背景には、法体制の整備や規制緩和の遅れがある。医療機器や医療保険の対象認可に要する時間も、欧州と比べると大幅に長い。

 ロボット大国の看板を掲げる日本は、年間出荷額、国内稼働台数ともに世界一で、基礎技術や素材、ソフトウエアでも世界最先端を行く。だが、それはあくまでも産業用ロボットの話で、医療・介護を中心とするサービスロボットでは欧米企業の動きが速い。

 医療環境が柔軟で、治験から実用化までをスピーディに進められる欧州は、医療ロボット市場の開拓を狙う企業にとって魅力的だ。サイバーダインのほかにも、欧州で実績を積んで逆輸入の形で日本での実用化を目指す国内企業は少なくない。