お金の謎を解く冒険。
今回は竹中平蔵さん。本連載ラストは、これからの日本を担う16歳へのメッセージ。「先の見えない時代を生き抜くためのヒント」がきっと見つかるはずです。
取材・構成:岡本俊浩/写真:加瀬健太郎/協力:柿内芳文(コルク)
<今回の先生>
竹中平蔵(たけなか・へいぞう)
1951年生まれ。一橋大学経済学部卒業。日本開発銀行設備投資研究所、大蔵省財政金融研究室主任研究官、ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学教授などを経て、2001年発足の小泉純一郎内閣に参画。構造改革を主導する。第二次安倍内閣では「産業競争力会議」「国家戦略特別区域諮問会議」メンバーとして活動。そのほか、社団法人日本経済研究センター特別顧問、アカデミーヒルズ理事長、パソナグループ取締役会長、オリックス株式会社社外取締役などを兼任。著書多数。
かつて不安じゃない時代があっただろうか?
いま、若い人と話すと、
「不安だ」
「先が見えない」
みなさん、こう言います。私はこう思うんです。
逆に、いままで不安がじゃない時代があったのだろうか。誰にとっても等しく、先が見えて順風満帆な時代があったのだろうか。……そんな時代はありません。
たとえば、明治から太平洋戦争の終戦までの約80年間は、毎日が経済危機のような時代です。何が起きるかわからない。国内の労働市場は貧弱だから、日本人が海外に出稼ぎに出ていた時代もあったんです。その行き先はブラジルだったりしました。生き抜くために、未開拓の土地を開墾した人々がいたんです。
戦後に転じてみても日本の製造業は太平洋戦争で拠点を失ってマイナスからの再起だったんです。たとえば新日鉄の人はUSスチールに技術を学びに行って、ドキドキしながら製造拠点の再構築に取り組んだ。戦後の日本経済が急成長できたのは、この上に立っているから。
みんな苦労をしたでしょう。
苦労したにもかかわらず、見返りのないまま途方に暮れた人もいたでしょう。
しかし、きっとそのころの人は、不安だ、誰かがなんとかしてくれるなんて思わなかった。自分でなんとかするしかない、そういう環境にいたからです。
でも、考えてもみてください。いまの日本が置かれた状況がなんと豊かなことか。先が見えない、不安を感じるのなら、それを振り払うために頑張ってみたらいいじゃないですか。
しかし、そうはいかないんでしょうね。いまの日本には、なかなか火がつかない構造的問題があるのも確かです。
大切なのは「What’s a problem?」
これは、元ソニーCEOの出井(伸之)さんがおっしゃっていたことで、「中年症候群」という言葉があります。ミドルエイジシンドローム。中年になると、新しいことをやるのが不安になる。なぜかというと、いろんな意味で守りたいことが出てくるから。頑張らなくなる。
ところが、みんな自分でやっていることはよくわかるんです。
新しいことに挑まない、頑張っていないことがわかるから、ますます不安になる。それで悪循環になってまた不安になる。いらいらし始める。それは不幸ですよ。
もし、若い人が「将来が不安」と感じるなら、勉強すればいい。伸びしろは十二分にあるんですから。単純にアドバンテージがあるんですよ。お金を貯めて、留学に行ってもいいじゃないですか。チャンスはあるんです。
あなたが不安の根っこにあるものは何なのか。自分のカメラで、一度見てみたらいいじゃないですか。そのときに心にとめて欲しいことがあります。
「What’s a problem?」
何が問題なのか。
将来やりたいことが見つからなくて困っているのなら、それがproblemでしょう。あるいは、高い給料で働きたいなら、それがproblemになる。「自分にとって問題だ」と感じるのなら、解決すればいい。反対に問題でなければ放っておけばいいんです。
問題解決が必要になったら、具体的な行動が求められます。漠然と不安がっているだけでは、何も考えていないのと同じです。ずっと解決しません。
快適すぎて変われない人びと
それでも、こういう人は多いかもしれません。
「何が問題なのかわからない」
確かに、いまの日本社会を生きていて、深刻な問題は表面上、ない。だから、「What’s a problem」が考えにくくなっているのは事実でしょう。
日本は極めて「Comfortable」なんですよ。何もしないで「快適に」暮らすことができる。
Too comfortable to change.(快適過ぎて、変われない)
ただ、この構造こそ、危険をはらんでいる。よく言われますよね。「ゆでガエル」です。カエルを熱湯に放り込むと熱いからすぐに逃げ出す。しかし、水のなかに入れてゆっくりあたためていくと、そのうち茹であがってしまう。
快適過ぎて、問題意識を持ちづらい。行動を起こせない。わたしはこの言葉を贈りたい。
19世紀ドイツの政治家にビスマルクがいます。彼はこう言いました。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
要するに、個人が得た、せまい経験が導き出した判断よりも、長い年月と膨大な人間がつくりだしてきた歴史的事実の方が信用に値するのだと、いうことです。1人が積み上げたデータよりも、歴史というビッグデータの方が信頼に足るということですね。
若い人は歴史を学んだ方がいい。ところが、日本の歴史教育ってとても貧弱なんです。なぜ、こう言えるかというと、日本史の教科書はとても薄いんです。中学校の教科書なんてペラペラですよ。日本よりも建国から歴史の浅いアメリカの教科書は4〜5倍もあります。これはいったいどういうことだろうか、と思いますね。
要するに、日本の教科書って「何年に何がありました」。こんな程度のことか教えていないんですよ。単なる年号の羅列。でも、重要なのは本質でしょう。
過去に連綿と積みあがってきた歴史的なできごとはなぜ起きたのか。
きちんと説明できる日本人がどれだけいるでしょうか。「大化の改新」「律令政治」。これらはなぜ起きたのか。あなたは説明できますか?
だから、中年になってみんな「これではいかん」と思うわけでしょう。それで歴史本が売れたりする。まあ、これはいいとして、自分の道をみつけるためには歴史は学ばなきゃいけません。それは、魚にたとえると、「川を上る」ことです。そう、わたしは若い方によくこう言うんですよ。
「川を上り、海を渡れ」
昔を生きた日本人が何を悩み、その時代に何をやってきたのか。時空を超えて、それらをよく学び、生きる上での参考にしたらいいんです。いま、あなたが悩んでいること、直面している困難は、過去の誰かも悩んだことなんです。江戸時代か、明治時代か、あるいは大正時代なのか。必ずヒントが眠っているんです。
※続きは 『インベスターZ公式副読本 16歳のお金の教科書』(ダイヤモンド社)をごらんください。