たくさんの企業がワークスタイルの変革に取り組んでいるが、成果が上がっていないケースも多いようだ。そこにはどんな障壁があり、どうすれば乗り越えることができるのか。 長時間労働の解消やダイバーシティ実現のコンサルティング分野で実績を有する日本能率協会コンサルティングの田中良憲チーフ・コンサルタントに聞いた。
日本のホワイトカラーの生産性は低いといわれるが、その根拠は何に基づくものだろうか。
「一般的には、日本生産性本部が毎年発表する『労働生産性の国際比較』の調査結果を根拠とするケースが多いのです」と、日本能率協会コンサルティングの田中良憲チーフ・コンサルタントは説明する。2015年版の同リポートによれば、14年の日本の労働生産性はOECD加盟34カ国の中で21位だ。
産業構造が変化しても
働き方の形は変わらず
ビジネスプロセスデザインセンター
田中良憲 チーフ・コンサルタント
大手ノンバンクを経て、2000年、日本能率協会コンサルティングに入社。長時間労働の解消、ダイバーシティの実現を目的とした企業のワークスタイル変革支援に取り組む
Photo by KUNIKO HIRANO
これについて田中氏は、「労働生産性上位の国と日本では産業構造が違うため、ランク自体を悲観する必要はないが、それが年々下がっていることが問題」と前置きした上で、自身が業務改善に関わってきた企業の実態を次のように述べる。
「日本企業には、時間を多く投入することが成果を高める結果につながるという発想が根強く残っています。高度経済成長期の古い働き方、マネジメントスタイルから脱し切れていない実態があります」
昨今、企業の仕事の中身は大きく変化した。バブル経済崩壊以降、情報システムの導入やアウトソーシング化が進み、一定の決まった情報を大量に処理する「定型業務」よりも、人の能力を生かして情報を加工する「問題解決・課題対応型業務」の割合が高まっている。
また、グローバル化が進み、意思決定のスピードが問われる過程で、事業領域と業務内容は広範囲にわたり、細分化され、さらに社員の雇用形態も多岐に及んでいる。経営者にとっては、ますます人材マネジメントが難しくなる中、社員の能力をフルに引き出すためには、ワークスタイルを経営課題解決につながるようシフトさせる必要がある。
「生産性とは投入に対する成果のこと。仕事の生産性を上げるには『時間当たりの成果は何か』を意識し、定めて行動する必要があります」と田中氏は言う。
もちろん、多くの企業がこうした問題を認識しワークスタイル変革に挑戦してきた。しかし、制度やファシリティを導入しただけで、実際には働き方を変えられないケースを同氏は多数見ている。そして、その原因となっているのは、変革の指針がないこと、加えて、指針を実現するためのシナリオや仕組みが組織内で練られていないことだと指摘する。