『週刊ダイヤモンド』2月12日号の第1特集は「セブンDX敗戦」です。巨大流通帝国、セブン&アイ・ホールディングスが巨費を投じて進めてきたデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略が水泡に帰しました。一方、セブン&アイによる「DXバブル」を巡って、ITベンダーやコンサルティング会社が繰り広げた激しい受注競争が、法令順守違反の疑惑を生み出していました。(ダイヤモンド編集部 名古屋和希)

1200億円投資の「DXバブル」
ベンダーの受注競争は過熱

セブン&アイ・ホールディングスの内部資料では、出向社員の出向元への巨額発注を巡るコンプライアンス上のリスクが指摘されていた Photo:DW

 セブン&アイ・ホールディングスの“DX敗戦”の柱は、2021年のDX戦略の「司令塔」であるグループDX戦略本部の解体とそのトップだったリクルート出身の米谷修氏の“失脚”、そして目玉のDX施策の白紙撤回である。

 それまでセブン&アイでは20年から米谷氏をトップとするDX部門が中心となってグループ横断でDX施策を展開してきた。大型プロジェクトも目白押しで、グループ全体のDXへの投資は総額で1200億円にも上った。これは流通企業の売り上げに対するIT投資の平均的な比率の2倍超にも及ぶ巨大な投資だった。

 この「DXバブル」に群がったのがITベンダーやコンサルティング会社である。激しい受注競争はベンダーやコンサルの序列をも大きく変える熾烈なものとなった。

 その一方で、激しい「利権争い」が統制不全を招きかねない事態を生んだ。ダイヤモンド編集部が入手した内部資料が明らかにするのは、DXバブルを巡るITベンダーの「やりすぎ」ともいえる案件受注である。

 セブン&アイに出向した社員の在籍する部署が、出向元に巨額の発注を繰り返していたのだ。

出向者が出向元に計127億円発注
内部資料「コンプラリスクを懸念」

「DX戦略本部内の統制」

 内部資料にはそう題したA4サイズのペーパーが存在する。それは、ベンダーからの出向社員による出向元への発注金額を部門別に示したものだ。

 例えば、グループDX戦略本部には、PwCから出向してきた2人が所属。そのPwCに対して案件を発注し、5億7000万円を支払っている。

 金額が大きいのが、IT統括部・GMSシステムという部門である。同部門はアクセンチュアから社員1人受け入れており、アクセンチュアに発注することで、60億1600万円も支払っていた。NTTデータから出向で1人を受け入れるITインフラ部という部署は、NTTデータに26億5700万円を支払っていた。

 内部資料が示すのは、その驚くべき総額である。計10部門で31人を受け入れており、出向元への支払額を合計すると127億5000万円にも上るのだ。

 同じペーパーには、直近の稟議の数と、ITベンダーに対するシステムの導入や業務委託を提案・依頼する際の提案依頼書(RFP)の実施状況が記されている。内部資料の作成時点では、RFPは任意で実施されていたとし、全体の稟議の610件のうちRFPが実施されたのはわずか18件程度としている。その実施率はわずか3%ほどだ。

 意味するのは、セブン&アイに出向してきた社員が、出向元のベンダーにRFPのプロセスを経ずに案件を発注できてしまうということだ。内部資料は「コンプライアンス上のリスクが懸念される」と警鐘を鳴らしている。

 全体の1割をも占める127億円という数字は、DXバブルが、コンプラリスクを懸念させるほどにITベンダーの競争を過熱させていた事実を如実に表している。取引先にとって、セブン&アイは金払いの極めて良い〝上客〟だったのだ。

セブン「DX敗戦」を極秘資料で解明
経営陣混迷…「DX失敗の教科書」

 『週刊ダイヤモンド』2月12日号の第1特集は「セブンDX敗戦」です。実は、2021年秋、セブン&アイのある幹部役員がひっそりとグループを去っています。その幹部役員とは社外から招かれ、グループのDX部門のトップとして戦略を主導した米谷修氏です。まさにDX戦略の最重要人物ともいえる存在です。

 しかし、セブン&アイは、役員人事にもかかわらず、その幹部の退任をいまだに公表していません。なぜでしょうか。それは、そのキーマンの退任こそが、大号令をかけて進めてきた同社のDX戦略が瓦解してしまったこと表しているからです。

 では、セブン&アイの内部で一体何が起きていたのでしょうか。特集では、ダイヤモンド編集部が入手した社外秘の内部資料や動画を基に、DX戦略を巡る創業家役員も絡む人事や組織の混迷、ITベンダーやコンサルティング会社も巻き込んで繰り広げられた苛烈な暗闘の全容を明らかにしていきます。

 今回の“DX敗戦”の主要な柱は、DX部門の解体と部門トップの失脚、そして目玉のDX施策の白紙撤回です。創業家役員によってDX戦略に引導が渡された「見せしめ御前会議」の様子を社外秘の動画を基に完全再現。DX部門がグループ内部から集中砲火を浴びるきっかけになった、グループ内の著しい「待遇格差」についても紹介します。

 内部資料からは、改革の“抵抗勢力”によるDX戦略の「解体作戦」の実態も浮かびあがります。セブンの社外秘の内部資料で、宿命のライバル、イオンのDX戦略が「ベタ褒め」されている理由も紹介します。

 また、セブン&アイのDX大号令はITベンダーやコンサルにとって千載一遇のチャンスとなりました。特集では、「DXバブル」に沸いたベンダー・コンサルの激しい受注競争で起きた序列の変化や、“恩人”の野村総研を巡り創業家役員が激怒した“大事件”の顛末も取り上げます。

 さらに、内部資料には、バブルに群がったベンダー・コンサルの実名と実額がこれでもかとばかりに登場します。NTTデータ、野村総合研究所、アクセンチュア…。特集では、取引ベンダー主要53社の受注額ランキングに加え、ITベンダー人月単価の実額も完全公開します。また、IT業界座談会を緊急開催し、業界で日常的にDXに関わる「インサイダー」たちに「セブンDX敗戦」を読み解いてもらいました。

 セブン&アイにとって今回の“DX敗戦” は、ECサイト「オムニ7」、スマホ決済「セブンペイ」に続く「第三の敗戦」になります。特集では、”負の遺産“となってきたオムニ7が23年にも閉鎖するとの特報に加え、デジタル戦略での失敗連鎖の裏にある「二族経営」の呪縛について解説していきます。

 “流通のカリスマ”鈴木敏文前会長兼最高経営責任者(CEO)の息子で、セブン&アイでデジタル戦略を主導した鈴木康弘元最高情報責任者(CIO)もインタビューに登場。IT導入を巡る「血みどろの戦い」を生み出すセブン&アイの“病理”を激白しています。

 DXブームに沸く中、セブン&アイのDX敗戦は、必読の「DX失敗の教科書」ともいえます。ぜひご一読ください。