11月8、9日に早稲田大学で最先端サステナブルテクノロジーの動向や技術開発の事例を紹介するセミナーが開催され、多くの参加者を集めた。
低炭素社会や循環型社会の構築に向けて、環境技術を核としたイノベーションへの期待が高まっている。しかし、優れた技術であっても、イノベーションとして社会的にインパクトのあるものへと結実させるには、ビジネスとしての市場を形成する努力が欠かせない。
そうした課題の解決に取り組んだ同セミナーの模様をお伝えする。
 

 日本国内の経済・政治の停滞が続くなか、企業や自治体には、気候変動をはじめとする地球環境問題の解決に向けて、待ったなしの対応が求められている。経済と環境への影響が絡み合う複雑な問題だが、一手に解決する手立てとしてサステナブル(持続可能型)テクノロジーによるイノベーションへの期待が高まっている。

加藤幹之氏
インテレクチュアル・ベンチャーズ日本総代表
荒井広幸氏
参議院議員
新党改革幹事長
ジョン・ワーナー氏
ワーナー・バブコック・インスティテュート・フォー・グリーン・ケミストリー代表兼CTO

 早稲田大学環境総合研究センターとインテレクチュアル・ベンチャーズの主催で2日間にわたり行われた今回のセミナーでは、産学官の研究者が取り組む最先端のサステナブル技術の姿が明らかにされた。インテレクチュアル・ベンチャーズの加藤幹之・日本総代表はセミナー開催の意図を次のように語る。「日本の大学、企業のなかで埋もれている知的財産を、当社の全世界4000人以上のイノベーターのネットワークと結び付けて活用してもらいたいのです」。

 初日の基調講演(1)では、参議院議員で家電エコポイント制度の発案者でもある荒井広幸氏が登壇。エコポイント発案の背景から実現までの過程や、複数の自治体を連携させたリサイクルの事例など、昨今の政治現場での実情を交えながら、経済と環境を共生させる「政治技術」について自説を披露した。「コストをかけずとも、技術や人を新しい着眼点で結び付けることで、諸問題を解決し環境共生型社会を構築することができる。それが日本経済を成長させ、ひいては世界を救うことになります」と強調した。

サステナブルの土台となるグリーンケミストリー

 続いての基調講演(2)では、著名な化学者のジョン・ワーナー博士が、自らが概念を作り上げた化学分野「グリーンケミストリー(環境に優しい化学)」について語った。
ワーナー博士は冒頭で「化学者たちはさまざまな物質を作るが、その多くは毒性を持ち地球環境に大きなインパクトを与えます。なぜ物質が有害になるのか、有害な物質を世に出していないか、化学者は倫理が問い直されています」と、化学技術の基礎としてのグリーンケミストリーの重要性を説いた。

 グリーンケミストリーは1990年代に提唱された、人間の健康や環境に害のある物質の使用や発生を削減しようという理念だ。有害物質を放出後に処理するのではなく、そもそも化学物質を作る段階から毒性や環境への影響を考慮し、環境や健康へのリスク軽減を図ろうとする取り組みだ。

 グリーンケミストリーはまず米国で広がり、世界の化学企業のあいだで浸透していった。安全性を高めるだけでなく、省資源・省エネルギーにも貢献し、かつコスト低減にもつながるこの理念を取り入れることは、企業にとって競争優位性を高める武器にもなる。