生と死の境がなく、魂が肉体を持っている――と考えるアメリカインディアン。彼らの思想には、古来の日本人が持っていた死生観と共通するものがあるという。死を考えることは、すなわち、どう生きるかを考えることでもある。「アメリカインディアン」シリーズの著書もあり、早稲田大学名誉教授で作家の加藤諦三氏に、現代の日本人が持つべき死生観について尋ねた。

 

 アメリカインディアンは死を恐れません。彼らには、行く場所があるからです。『インディアンの教え』の著者ジェームスによれば、アメリカインディアンは、死ぬと魂が別の世界に行くと信じています。この世に生まれてきたのと同じように、また別の世界に行く。彼らの考えでは、「肉体が魂を持っているのではなく、魂が肉体を持っている」のです。

 したがって、肉体がなくなったとき、魂が“回復する”と考える。生と死は、まるで季節の変わり目のように繋がっている。だから自然に死を受け入れ、死を恐れないのですね。

 またアメリカインディアンは、自分たちは自然の一部だと考えています。彼らにとって薫る花は姉妹、大空を飛ぶコンドルは兄弟で、自分たちは大地の一部なのです。そして自然の至るところに、神が宿っていると信じています。ある意味で、森羅万象に神が宿ると考えていた、古来の日本人と似ているかもしれません。死によって魂が肉体から解放されて、すべて自然の中へと浸透していく。

 彼らはこう語っています。「生と死はサイクルの部分です。死は季節の変化のようにすばらしいものです。歳をとっていることは秋の美しさと同じようにすばらしい」と。だから彼らは、単純に穏やかに死を迎えられるのです。