全国でマンションのストック戸数が伸び続ける一方で、老朽化の激しい高経年マンションが増加している。マンション再生手段の一つが「建替え」だ。権利者の共有財産であるマンションをどのようにとらえ、再生に導くべきか。国土交通省・国土技術政策総合研究所の長谷川洋氏に聞いた。

長谷川 洋
国土交通省国土技術政策総合研究所
住宅研究部 住環境計画研究室 室長
はせがわ・ひろし。博士(工学)。住宅政策・居住政策、住宅計画を専門とし、1997年から国土交通省(当時建設省)が実施したマンションにかかわる総合技術開発プロジェクトにおいてマンション建替え研究を担当し、2002年のマンション建替え円滑化法の制定、区分所有法の改正のほか、「マンション建替え実務マニュアル」「マンション耐震化マニュアル」などの作成に携わる。主な著書は、『マンションを100年もたせる』(共著・オーム社)、『改修によるマンション再生マニュアル』(共著・ぎょうせい)ほか。

 日本で1960年代から急速に供給が進んだマンションは、現在では600万戸近く存在するとされる。築年数だけで老朽化の度合いは測れないが、一般に高経年マンションの目安とされる築30年以上の物件は、2011年に100万戸を超えると予測されている。

 老朽化したマンションは、設備の陳腐化や外見の悪化だけでなく、耐震性が不足していたり、エレベーターがなかったりと、深刻な問題を抱えているケースが少なくない。国土交通省の国土技術政策総合研究所住環境計画研究室の長谷川洋室長はこう説明する。

「高経年マンションでは、建物と居住者の老いが同時に進んでいます。マンションの快適性を維持するには日常的な管理と修繕が欠かせませんが、高齢者が多いと役員のなり手がいなくなり、それが十分に行われません。建物の魅力が失われ、新しい入居者も現れず、さらに建物は劣化します。そのような問題を解決するのがマンションの再生です。再生することで、建物の快適性が向上するばかりか、若い人の入居を促し、コミュニティの活発化にもつながります」

多くの問題を解決する
「建替え」という手段

 老朽化したマンションを再生する手段には、大がかりな工事を伴う「大規模修繕」や、グレードアップを施す「改修」がある。そして、耐震性が不足している、間取りや天井高さが現在のライフスタイルに合わないなど、大規模修繕や改修では対応できない問題を解決するのが「建替え」だ。

 たとえば高経年マンションには間取りも住戸の広さも画一的なものが多く、高齢者夫婦2人にとっては住みやすくても、子育て世帯にとっては住みにくい場合がある。建替えして多様な間取りを用意できれば、子育て世帯の入居が期待できる。また、建替えを実現すれば、バリアフリー化や防音性能アップなど、建物の水準を大幅に向上させることができる。