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米空軍でバードストライクの
年間被害総額は5000万~8000万ドル!

 長さ18メートルの砲身から時速650キロで放たれた砲弾がジェット機に撃ち込まれる。“砲弾”の重さは約1.8キロ。なにやら物騒だが、この砲弾の正体が「鶏肉」だと聞いたら、ほとんどの人がなにそれ?と首を傾げるに違いない。

『兵士を救え!マル珍軍事研究』
メアリー・ローチ著、村井理子訳、亜紀書房、360ページ、2300円(税別)

 アメリカ空軍のジェット機は年間3000回程度、バードストライクに見舞われるという。被害総額は年に5000万ドルから8000万ドルに及び、数年にいちどパイロットの命が奪われる。チキン砲は、バードストライクに機体がどれだけ耐えうるかの実験のために撃ち込まれていたのである。

 実験なら鴨や雁のような飛べる鳥のほうがいいのでは?とツッコミを入れたくなるが、ニワトリは、湿地帯上空を飛ぶ鳥と比較しても肉の密度が高いのだそうだ。しかも入手しやすく規格化も容易。まさに実験の素材としてはうってつけというわけだ。

 それにしても機体に向けて繰り返しチキン砲が放たれる光景にはなんだか脱力させられる。だがアメリカ空軍の研究チームは大真面目だ。鳥は学習能力が高く、滑走路に近づけまいとして人間が流す警報音や小さな爆破音、捕食者の鳴き声などに、あっという間に順応してしまうという。そうした鳥の利口さに対して、彼らは鳥類学や統計学、工学など学際的な知見を総動員して立ち向かった。

 その結果、発信器をつけたヒメコンドルの飛行データをもとに「鳥類迂回モデル」を生み出し、バードストライクのリスクの高い時間と空間を避けるフライトスケジュールを組み立てたり、鳥が特定の周波数に反応するというデータをもとに、飛行機のレーダービームに信号を加え、前方を飛ぶ鳥に危険を知らせることができるようにしたりといった対策を立てることに成功したのである。

 軍事サイエンスの分野では、敵を攻撃するだけでなく、このような味方を守るための研究も熱心に行われている。本書『兵士を救え! マル珍軍事研究』には最新の殺傷兵器に関する研究は出てこない。本書が扱うのは、酷暑や疲労、大きな騒音や突然の下痢など、一見すると我々も日常生活で馴染みのある問題、けれど戦場の兵士にとっては死活問題となりかねない難問の数々だ。