創造性に関する研究の多くが、アイデアの質はアイデアの量に比例することを指摘している。成功者は、成功したから多く生み出したのではなく、多く生み出したから成功したという事実。では、多くを生み出すためのコツとは何か? MBAを取らずに独学で外資系コンサルタントになった山口周氏が、知識を手足のように使いこなすための最強の独学システムを1冊に体系化した『知的戦闘力を高める 独学の技法』から、内容の一部を特別公開する。
ストック次第で創造性は1000倍になる
一般に、創造性は生まれつきのものであって後天的に高めることはできないと考えられがちですが、ある程度は後天的に高められることが脳科学や学習心理学における研究からわかっています(*4)。
*4 Howard E. Gardner, "Art, Mind, And Brain: A Cognitive Approach To Creativity",
Basic Books, 1984.
創造性を高めるための有効な手段の一つとして、多くの人が指摘しているのがアナロジーの活用です。アナロジーとは、異なる分野からアイデアを借用するという考え方で、わかりやすくいえば「パクリ」です。
アナロジーの活用による成功事例として、恐らくビジネスの世界でもっとも有名な事例が格安航空会社のサウスウェスト航空でしょう。
サウスウェスト航空は、航空機の整備時間を短縮するための抜本的なアイデアを得るため、カーレースのインディ500のピット識というものが生まれ、それが根強く動かし難いものになっているのか」という論点についての洞察がまったく欠けています。
「常識を疑う」という行為には実はとてもコストがかかるのです。一方で、イノベーションを駆動するには「常識への疑問」がどうしても必要になり、ここにパラドクスが生まれます。
結論からいえば、このパラドクスを解くカギは一つしかありません。重要なのは、よく言われるような「常識を疑う」という態度を身につけることではなく、「見送っていい常識」と「疑うべき常識」を見極める選球眼を持つということです。そしてこの選球眼を与えてくれるのがまさに「厚いストック」なのです。
「厚いストック」と目の前の世界を比べてみて、普遍性がより低い常識、つまり「いま、ここだけでの常識」を浮き上がらせる。スティーブ・ジョブズは、カリグラフィーの美しさを知っていたからこそ「なぜ、コンピューターフォントはこんなにも醜いのか?」という問いを持つことができました。
チェ・ゲバラはプラトンが示す理想国家を知っていたからこそ「なぜキューバの状況はこんなにも悲惨なのか」という問いを持つことができたのです。
目の前の世界を、「そういうものだ」と受け止めてあきらめるのではなく、比較相対化ワークを詳細に観察しています。そして「専用工具の活用」や「事前の段取り」がカギだということを学んで、それまで45分かかっていた整備時間を15分まで短縮することに成功しています。
あるいは、私たちにもなじみ深いアナロジーの事例に回転寿司があります。回転寿司のアイデアの元ネタになったのは工場のベルトコンベアでした。
ある日、寿司屋の主人が取引先のビール会社の工場を見学しました。そこでベルトコンベアに乗って次々とビールが流れてくるのを見た主人は、寿司屋のカウンターにベルトコンベアを仕込んで、そこに寿司を流せば、寿司職人の数を増やさずに店のサイズを大きくできる、ということに気づいたのです。
このように、アナロジーというのは、一見すると直接的な関係はなさそうな分野の知見を組み合わせることで、新しいアイデアを得るという考え方です。
――「wired」1995.2 記事より
ジョブズは、創造というものが「新しい何かを生み出すこと」ではなく、「新しい組み合わせを作ること」でしかないと指摘しています。実は、高いレベルの創造性を発揮した人物の多くが同様の指摘をしています。
たとえば、私が電通に入社した、まさにその初日に必読の書籍として配布されたジェームズ・W・ヤングの『アイデアのつくり方』にも同様の指摘がされています。ヤングは、この本で二つの原理を提示しています。
一つ目は、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」ということ。そして二つ目が「新しい組み合わせを作り出す才能は、事物の関連性を見つけ出す才能に依存する」というものです。ヤングもジョブズも結局のところ、新しいアイデアというのは既存のものを組み合わせることでしか生み出せない、と言っているわけです。
さて、ここで重要になってくるのが、「組み合わせる情報」の数です。モデルを単純化して考えてみましょう。