「集中力だけでは、むしろマイナスになる」
 最新の脳科学「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」で明らかになった、集中力と表裏一体の関係にある「非集中力」。ハーバード・メディカル・スクールで教鞭を執る「脳の専門家」スリニ・ピレイ博士がその驚くべき力を活かすメソッドを明かした新刊、『ハーバード×脳科学でわかった究極の思考法』がいよいよ日本に上陸する。
 第1回「ハーバード×脳科学でついに判明!頭がよくなる『○○スイッチ』とは?」では「非集中力」の重要性を語ってくれたピレイ博士に、一生衰えない「脳の鍛え方」について聞いた。

一生衰えない「思考力」を手に入れるには?

これで一生衰えない!最新理論でわかった「脳の鍛え方」

 集中力がないことを十分自覚していて、いつもそれを人に責められて悩んでいる方にとっては、非集中が貴重なスキルだというのは朗報だろう。そういう方々にとって大事なのは、非集中力を暴走させる代わりに磨き、生活のなかで上手に活かしてやることだ

 オーケストラを例に取ろう。オーケストラのメンバーは自分の受け持つパートの演奏を習得するために練習を積む必要がある(集中)。しかしコンサートでは、個々人が自分の専門技術と音色を全体に溶けこませられなければならない(非集中)。譜面を追って音楽を演奏するだけの集中力と、指揮者にときどき目をやりながら、お互いの音色に耳を立てて一緒に音楽をつむいでいくだけの非集中力が必要になる。過剰な集中を断ち、まわりの人々と音色を融合させるのは、まぎれもないスキルだ。

 スポーツも同じだ。たとえば、テニスが上達するためには(もちろん、体力は十分にあるものとして)、いくつもの具体的な技術を集中的に練習する必要がある。ショットの種類に応じたラケットの握り方。フォロースルーの方向。体に対する足の位置。サーブ時のトスの高さ。ボールを思いどおりの場所に打つための打球の強さ。そして、ゲームで繰り返し実戦感覚を磨く必要もあるだろう。こうした動きを体に覚えさせるには長時間の集中的な練習が欠かせないが、そうするうちに脳内にテニスの動きの青写真ができあがる。

 いったんそれを信頼できるようになれば、試合中はボールをしっかりと見つめ、体に今まで学んだ動きをさせるだけでよくなる。つまり、非集中のスイッチを入れるわけだ。非集中の状態になると、意識的にどうしようと考えなくても、体がボールを思いどおりの場所に運ぶための無数の小さな調整を自然と実行してくれるのだ。

 ごく大ざっぱにいえば、非集中とは、脳がいざというときにすぐさまフル回転し、創造力を発揮できるよう、脳をリラックスさせるプロセスだ。これは決して希望的観測ではなく、神経学できちんと証明されているれっきとした事実なのだ。