企業財務の世界にもデジタル化の波が押し寄せている。デジタルを活用して自動化を進め、業務の質や精度を高めるだけでなく、財務会計と管理会計の統合により、意思決定の質向上、ビジネスのスピードアップを図ることもできる。3月13日に開催された「SAP Finance Day 2018」では、SAPの考える次世代のデジタルファイナンスが語られた。
アナログプロセスの
デジタル化が進む
最初に基調講演に立った東京大学大学院工学系研究科教授の森川博之氏は、「世の中の膨大なアナログプロセスが徐々にデジタルに置き換えられてきています。そのことに留意すべきです」と語り始めた。
教授
森川博之氏
その上で、「デジタル化の目的は生産性向上と新たな価値の創出にあります」と指摘。注目を集める派手な事例ばかりではなく、身の回りで起きている小さな変化にも注目することを促した。
「四国のある古紙回収業者はスーパーと連携し、店舗に設置した古紙回収ボックスをIoT化しました。回収のタイミングを最適化して回収コストを大幅に削減し、浮いたコストの一部は買物客のポイントに充当されました。この結果、ステークホルダーすべてが、利益を享受しています」
もちろん、デジタル化の取り組みにはリスクもある。しかし森川氏は「新しいアイデアが提案されたとき、『まず、やらせてみる』という姿勢が重要」と強調する。さらに失敗したとしても、それを責めてばかりでは次のチャレンジは生まれない。デジタル化は経営者の意識変革も求めているのだ。
続いてデジタルファイナンスについてスピーチしたのが、デロイト トーマツ コンサルティングの安井望氏である。
執行役員 パートナー
Japan Technology Leader
安井 望氏
「営業などのフロントエンドから会計などのバックエンドへ、デジタル化の焦点がシフトしつつあります」と安井氏。業務の精度向上や意思決定支援などデジタルファイナンスのメリットに言及した上で、日本企業の課題を指摘した。
「本格的にAIを活用するためには、データが欠かせません。しかし、現状では十分なデータを収集・分析するための基盤が未整備な日本企業が少なくありません。デジタルファイナンスの取り組みを進めていくためには、足元のシステム整備とデジタル化の両面で投資を強化していく必要があるでしょう」
同社はSAPとの協業により、業務の自動化やインサイトの提供、コンプライアンスの強化などの観点でデジタルファイナンスへの取り組みを続けている。ファイナンス分野のアナログプロセスもまた、着実にデジタル化されつつあるのだ。