田中 宗(早稲田大学グリーン・コンピューティング・システム研究機構主任研究員(研究院准教授))田中 宗 早稲田大学グリーン・コンピューティング・システム研究機構主任研究員(研究院准教授) Photo by Yoshihisa Wada

 田中宗が夢を懸けるのは、量子アニーリングの活用研究である。米グーグル、NASA(米航空宇宙局)などが実現に力を注ぐ革新的な領域だ。田中はこの分野で企業から引っ張りだこの若手研究者である。

 量子アニーリングとは、量子の性質を利用し、組み合わせ最適化問題を高速、高精度で解こうという計算技術だ。

 いわゆる量子コンピューターとは違って、最適化問題に特化する。膨大な選択肢の中からベストなものを探し出すのに、大きな力を発揮すると期待されている。

 組み合わせ最適化問題として知られているものに、「巡回セールスマン問題」がある。

 セールスマンが全ての訪問先に足を運ぼうというとき、時間や交通費などのコストが最も低くなる巡回ルートはどれか。訪問先が5カ所ならルートは12通り、10カ所なら20万通り、20カ所では6京通り、30カ所になると2000兆×2000兆通りと、選択肢がまさに爆発的に増えてしまう。

 この厄介な組み合わせ最適化問題に対する取り組みは、これまで専ら情報科学分野で行われてきた。物理学分野を基礎とする量子アニーリングの登場で、新たな挑戦が始まっている。

 世の中にはこうした組み合わせ最適化問題が、企業活動や日常生活のさまざまなところに潜む。ビッグデータ、IoTの浸透でなおさらだ。量子アニーリングに熱い視線が注がれるゆえんである。