ヒット商品の裏には必ず「インサイト」あり。消費者がモノを思わず買いたくなってしまう心のスイッチ――「インサイト」を活用し、新しい市場を切り拓く方法とは。国内での新規事業の創出に加えて、インドや中国といった海外進出の際に実際に使われた方法もまとめた新刊『戦略インサイト』。本連載ではそのエッセンスや、マーケティングに関する最新トピックを解説していきます。

世の中の商品すべてが、ケーススタディの題材になる

インサイト“力”を鍛えるために、普段からできること。
前回の「自分自身を洞察する」に続く、第2弾です。
今回は、筆者が日常的に取り組んでいるゲーム的な方法をひとつ、ご紹介しましょう。

さまざまな商品カテゴリーで、次々と新製品が発売されます。メーカーが大々的な広告宣伝をしていて力が入っている新製品があったり、個人的にちょっと惹かれる新製品が目に留まったりします。
そのとき、「ふーん、こんな新製品が出たんだ」という情報入手にとどまらず、この新製品は「ヒットしそうか、しなさそうか」という予想を自分なりに立てます。

これは、新製品に限らず、新しいサービスでも、アプリでも、テレビ番組や映画などのコンテンツでも、新しいCMを見たときでも、はたまたカフェや居酒屋といったお店でも、これはウケそうか・流行りそうか、を予想することができます。

そして、「ヒットしそう」と思ったなら、なぜヒットしそうと思うのかを、自分で自分に説明します。そのとき、ポイントになるのは、消費者の立場から「この新製品は、こういう問題を解決してくれるから」とか「こういう欲求を満たしてくれるから」といった消費者の気持ちを掘り下げることです。
単に、「メーカーが広告宣伝に力を入れているから」とか、「どこのお店でも大量に陳列されているから」といった、マーケティング4Pの視点からの分析だけに終わらないようにすることが肝要です。

逆に、「ヒットしなさそう」と感じたら、なぜヒットしなさそうなのか、理由を挙げます。このときも、「この新製品が力を入れてアピールしている機能は、消費者から見ると、それほど魅力的ではないから」というように、インサイトを突いているかどうかから掘り下げます。
また、「機能はいいけど、この男性っぽいデザインは、人前で使うのに抵抗感がある」とか「便利そうだけど、なんか手抜きっぽくて、イヤ」といった心理的なバリアが理由に挙がることもあるでしょう。

このヒットする・しない予想は、できるだけ早めに、世の中の評価が出回らないうちに、立てるようにします。
しかし、すでにメディアで取り上げられていたり、巷で話題になっていたりする場合もあるでしょう。そういうときでも、メディアや他人の評価を鵜呑みにするのではなく、自分でしっかり考え、独自の予想と理由を出しましょう。

答え合わせをして、自分のズレを補正する

ヒットする・しないの予想を立てたら、その後、答え合わせをします。
新商品がヒットした場合は、広告での露出量が増えたり、メディアでヒット商品として紹介されたり、店頭に並ぶ商品ライン(バリエーション)が増えたりするので、わかります。
まったくヒットしなかった場合は、広告が打ち切られたり、店頭から棚落ちして商品を見かけなくなったりするので、すぐわかります。

そして、ヒットする・しないの予想が当たったか、外れたかを見るだけでなく、自分のどういう見方や感覚が合っていたのか、違っていたのかを見極めることが重要です。
予想と結果の組み合わせに、いくつかのパターンがありますので、順に見ていくことにしましょう。

【ヒット予想で、実際にヒットした場合。正解。】
ヒットすると予想した「理由」まで合っていたかどうかを確かめます。それも合っていた場合、あなたは世の中の人々のニーズや感情とシンクロしている状態です。
自分とは違う消費者層がターゲットだった場合は、そのターゲットに当たる身近な同僚や友人などに、そのヒットした商品のいいところを聞いて、理由を確かめましょう。

【ヒット予想だったが、実際はヒットしなかった場合。不正解。】
自分は「売れる!」と思ったのに、あっという間に棚落ちして、消えていく新製品もよくあります。
この場合、自分はインサイト(欲しいと思うスイッチ)を押されたのに、世の中の人々は押されなかったということ。つまり、このスイッチは、あまり普遍的なものではなかったということです。

この商品のターゲットが自分と同じ層だった場合は、自分の価値観や嗜好性、志向性などの傾向やクセを知り、補正します。(ちなみに、実生活での自分の価値観や好みまで補正する必要はありません。仕事でインサイトを探るとき、自分の傾向を加味して注意深く洞察するのです。)
ターゲットが自分とは違う層だった場合は、その層のニーズや気持ちがよくわかっていないということなので、しっかりインプットします。