ヒット商品の裏には必ず「インサイト」あり。消費者がモノを思わず買いたくなってしまう心のスイッチ――「インサイト」を活用し、新しい市場を切り拓く方法とは。国内での新規事業の創出だけでなく、インドや中国といった海外進出の際に実際に使われた方法もまとめた新刊『戦略インサイト』。本連載ではそのエッセンスや、マーケティングに関する最新トピックを解説していきます。

自分自身の「なぜ?」を、解き明かす

なぜ、この人は、商品Aを買ったのか?
なぜ、すぐ隣に並んでいた商品Bは買わなかったのか?

人の気持ちを推し量るのは、なかなか難しいものです。ましてや、その人自身も気付いていないような動機や感情を探るとなると、かなりのスキルが必要になるでしょう。

この洞察力を高めるために、どんな訓練方法が考えられるでしょうか?
今回は、筆者が普段の生活の中で行っている方法をご紹介しましょう。
それは、「他人を洞察する」前に、まず「自分を洞察する」という練習をすることです。自分の気持ちがわからないのに、他人の気持ちを理解するのは難しいですよね。

自分を洞察するとは、自分のとった行動の理由を探ることです。

例えば、コンビニで、「生茶」を買った。なぜ、「生茶」を買ったのだろう?
味が好き?苦くないから?
パッケージが新しくなってから何となく好きな気がする。抹茶っぽい色がおいしそう?それとも、前に見たCMが印象に残っていたから?などと思いを巡らせ、決め手になった気持ちに近づきます。

また、隣に「おーい、お茶」があったのも見えたけど、それにしなかったのはなぜだろう?
いや、その前に、いつも買う「水」ではなく、「お茶」にしたのは、なぜだろう?
味付きが欲しいときは「コーヒー」なのに、なぜ?と、商品カテゴリーを広げて、考えてみたりもします。

これは、商品を買うという購買行動に限りません。
夕食を中華にしたのは、なぜ?渋谷ではなく、新宿に出かけようとしているのは、なぜ?
どういう心理が働いている?この映画を見たいのは、なぜ?
逆に、あのドラマは流行っているのに見ないのは、なぜ?といったぐあいに、自分のしたこと、しようとしていることを、いちいち洞察するのです。

謎解き気分でおもしろがっていると、
いつの間にか習慣になる

なんか面倒くさいなあと感じられたかもしれませんが、コツは、謎解き気分で、おもしろがって気持ちを探ることです。思わぬ理由に行き着いたり、自分の意外な面を発見したりしたとき、ちょっとした喜びを感じるようになればしめたもの。どんどんクセになっていきます。
そして、習慣化すると、意識しなくても勝手に「洞察」するようになるのです。

この訓練は、自分の「好き嫌い」でも、できます。
なぜ、これが好きなんだろう?好きな要因は何?その印象やイメージは、何から形成されたもの?子ども時代の記憶から来ている?これが好きな理由は、ほかの好きなものにも当てはまる、普遍的なもの?これに限った理由?といったぐあいに、掘り下げることができます。

自分自身の気持ちを洞察する練習をしていると、人の心理の掘り下げ方がわかってきますし、人には洞察すべきどういう側面があるかもわかってきます。
こういう練習を積んだあとで、「他人を洞察する」と、自分の洞察力、インサイトを探り出すスキルが格段に上がっていることに気付くと思います。