ビジネスで通用する英会話のスキルは、どのレベルまで磨き上げれば盤石なのか? かねてからその有力なモノサシと位置づけられてきたのが、TOEICなどの語学力検定である。だが、英語によるビジネス・コミュニケーション研究の第一人者である明星大学の田中宏昌教授は、冒頭からこんなショッキングな指摘をする。
人文学部 国際コミュニケーション学科 教授
立教大学卒。テンプル大学教育大学院修士課程修了(TESOL)、同大学院博士課程満期修了。大学での研究・教育とともに、日米の企業に組織開発、教育プログラム開発のコンサルティングを行う。専門分野は、ビジネス社会における英語のコミュニケーションの社会言語からの研究。NHK教育テレビやNHKラジオにて数年にわたり講師も。
テストで「上級」と判定されても
「会議(集団)の構成員」にしか
なれない理由
「ひと昔前は、とにかく英語が喋れれば、グローバルな舞台で仕事ができると評価されました。しかし、今は単なる語学力のみならず、+αのコミュニケーション能力が求められる時代です。
これまでの研究から、純粋にテストで測定される英語能力が、そのままビジネスマンの質に直結するとはいえないことがわかっています。英語能力に、仕事能力が統合されて初めて「英語で仕事ができる人材」が生まれると考えられるのです。
例えば会話に不自由しないレベルの英語力があっても、単に情報を聞き流すのではなく、『それって、ちょっと何かおかしくありませんか? つまり……』と会話を掘り下げていく能力がなければ、キーパーソンにはなれないという現実が浮き彫りになったのです。また、ネイティブと互角に話ができるくらいの語学力があっても、イニシアティブ(先導力)がなければその集団のリーダーまでは上りつめられないこともわかりました。人の上に立つ有能な人物は、こうした能力を必ず持ち合わせているわけです」
田中教授の研究を簡単に図式化したのが右図だ。グローバルに活躍するために、語学力が必要なのは間違いないが、上を目指すには、他にも必要なスキルがあることがわかる。
小手先の英語力だけ磨いて試験の点数を稼いだところで、現実のビジネスでは太刀打ちできない――。このようにシビアな事実を突きつけられると、まさに戦意喪失で、「もはや今の歳から学んでも手遅れ……」と気持ちが萎えてしまうかもしれない。しかし、諦めるのは早計であるし、難しく考える必要もないと田中教授は言う。