免疫の「軍隊」と「おまわりさん」が
それぞれの任務を遂行
どれほど健康な人であっても、体の中には毎日5000~6000個ものガン細胞が生まれている。
「『そんなにたくさんのガン細胞が⁉』と驚かれるかもしれないが、1日24時間のうちに人間の体の中に生まれてくる細胞の数はおよそ1兆個。この天文学的な数から見れば、数千個の出来損ないはわずかな数です。健康体であれば、免疫という誰にでも備わった、体内の異物を排除する能力によって、生まれたばかりのガン細胞はたちまち見つかって退治されるため増殖しません」
順天堂大学医学部免疫学特任教授の奥村康氏は、このように説明する。
アトピー疾患研究センター長
奥村 康
千葉大学医学部卒、同大学院医学研究科修了。スタンフォード大学医学部留学、東京大学医学部講師を経て、84年より順天堂大学医学部教授。医学博士。2000年、順天堂大学医学部長。サプレッサーT細胞の発見者。免疫学の国際的権威である。著書に、『腸の免疫を上げると健康になる』『免疫のはなし』『免疫』『「不良」長寿のすすめ』など多数。
私たちの体は、この免疫力のおかげで、さまざまな病気から日々守られている。その仕組みはどうなっているのだろうか。
人間の体に、免疫という特定の器官があるわけではない。それは骨髄、胸腺、脾臓、リンパ節、血管、皮膚、腸管など複数の器官や組織が、連携して合って構成する高度なネットワークシステム(=免疫系)として機能している。
免疫系をつかさどるのは、血液の中の白血球である。
「白血球は、顆粒球(約60%)、リンパ球(35%)、マクロファージ(5%)により構成されています。マクロファージは、進化の過程で最初にできた〝元祖白血球〟で、体内に異物が侵入すると、すぐにその場に駆け付けてそれを食べて無毒化します。そのマクロファージが進化し機能分化して生まれたのが顆粒球とリンパ球です。
中でも免疫システムの主役はリンパ球です。リンパ球には、T細胞、B細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞といった免疫細胞があって、それぞれが独自の戦術で個々の敵(体内の異物)を攻撃しながら、連携し合って敵全体の撲滅作戦を展開しています」(奥村氏)
人体を一つの国家に例えると、T細胞とB細胞は国を守る軍隊、一方NK細胞は街の治安を守るおまわりさんのような存在だと、奥村氏は言う。
T細胞とB細胞は、軍隊と呼ばれるだけあってとても強靭にできている。120歳まで生きたとしても、これらの免疫細胞は劣化せずに活発な働きを維持するという。100歳の人にインフルエンザのワクチンを打ってもしっかりと効果があるのが、その証拠である。
「ワクチンとは、弱い病原体を体内に注入することで体内に抗体を作って、感染症にかかりにくくすることです。これは、軍隊(T細胞、B細胞)に対する軍事訓練のようなもの。軍隊が、ある仮想敵国からミサイルが飛んでくるという仮定の下に軍事訓練を行って、実際の攻撃に備えるわけです。
軍隊は平時は休んでいます。敵が攻めてくる(異物が侵入してくる)と、B細胞がミサイルを撃ちます。ミサイルに相当するのが抗体。その攻撃でかなりのウイルスはやられます。残りを地上軍であるT細胞が自ら突撃して殺していくのです。体内で軍隊が出動すると、熱が出ます。風邪などで38~39 度の発熱があったときは、体内で軍隊が動いていると考えれば間違いありません」(奥村氏)
軍隊の頑強さは、加齢によって衰えないだけでなく、さらに泣いたり笑ったりといった感情にも左右されないという。精神的に参っていても、軍隊はきちんと国家すなわち人体を守ってくれる。これが免疫の基本である。