「フィスカル・ドミナンス」(財政による支配)と超金融緩和策の関係に関する議論が海外のエコノミストの間で活発になっている。白川方明・前日銀総裁も退任前の講演などで何度も言及していた。3月19日の退任記者会見でも、財政規律と通貨の信認の重要性について白川氏は語っていた。
2月22日にニューヨークで開かれた「US金融政策フォーラム」で発表されたF・S・ミシュキン(コロンビア大学、元FRB理事)、J・D・ハミルトン(カリフォルニア大学サンディエゴ校)らによる論文は大きな話題を呼んだ。過去の20の先進国の政府債務状況を分析した結果、政府・議会が財政健全化に向かって適切に対処しているときは、金融緩和策はその動きに貢献する。しかし、逆の場合は、金融政策は財政政策に支配されてしまう。
特に、政府債務がGDP比で80%を上回り、かつ経常赤字の国は、その危険性が高い。彼らは議会が機能していない米国の場合、今後、財政の悪化を制御できない事態が訪れる恐れがあると心配している。財政赤字の維持可能性が市場から疑われ始めたときに、FRBの資産が膨張していると問題はより深刻である。
FRBは市場からいわゆる“QE”(量的緩和策)で購入した巨額の長期証券を持っている。ただでさえそれは景気回復局面で大きな損失を発生させ得るのに、財政懸念から米国債のリスクプレミアムが跳ね上がって価格が急落したら、FRBのバランスシートに凄まじい損失が生じる。「FRBは大丈夫か?」という話が市場で広まると、米国債のリスクプレミアムはさらに大きくなり、恐ろしい悪循環が起きることになる。