「レアメタル」と呼ばれ、日本を支える高度技術の要となる希少元素。その機能を、鉄やアルミなどのありふれた元素で置き換え、日本を資源大国へと変貌させる「元素戦略」が、産官学が連携したオールジャパン体制で進められている。科学と産業に革命的なインパクトを与える「元素戦略」の全体像を、その立役者とも言われる中山智弘氏(科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー/エキスパート)に解説してもらった。

「元素戦略」を実現する五つのルート
代替、減量、循環、規制、新機能

 「元素戦略」は、「希少元素を別のありふれた元素で置き換えていく」という考えで進められているが、どのような方策で、どのように置き換えていくのか。具体的には、「1.代替、2.減量、3.循環、4.規制、5.新機能」といった五つの視点で進められている(他にも、「備蓄」「他ルートの探索」などもあるが中心は1.~5.)。

 第一の「代替」とは、希少元素にしかないとされてきた特異な機能を、ありふれた元素で置き換えることである。これが現在の「元素戦略」のメイン戦略と見てよい。
 自動車の排気ガスを浄化する触媒に用いられる貴金属(プラチナ、パラジウム、ロジウム)を他のありふれた元素に置き換えることができないか、また、磁石におけるジスプロシウムを他の元素で代替できないかなど、産業的にも危機管理のうえでも、「代替(希少元素→ありふれた元素)」の手法は、わが国が先頭を走り続けていくために必要な視点である。最高の機能とリスクを天秤にかけ、多少は性能を抑えてでも代替を急ぐべきとの考えもあり、硬軟あわせてまさに製造業界が一丸となって検討しているところである。

 第二の「減量」は最も現実的な対応である。これまで通りの希少元素を使うにしても、その使用量を2分の1、3分の1へと減らすことで、「元素戦略」としての即効性が期待できる。常識的に考えると、この視点から元素戦略に入るのが最も自然かもしれない。完全代替は一朝一夕にはむずかしくても、5グラムを4グラム、3グラム……とカイゼンしていく手法は、一つの有力な道筋である。触媒の中で使われる貴金属の量を想像を絶する技術で極限まで減らしたダイハツのインテリジェント触媒などは、この「減量」作戦の典型であろう。