前回、日本の年金制度や確定拠出年金の基礎について、将来の資産運用に関して様々な講演を行う、ファイナンシャルプランナー 山中 伸枝さんに聞いた。今回は、企業経営者や社員等に対して多くのメリットをもたらす確定拠出年金についてさらに掘り下げていく。
山中伸枝氏
――確定拠出年金によって、企業や社員、経営者個人の社会保険料や税金の負担を削減できることは大きなメリットですが、既存の制度と併用することで、さらにメリットを生む方法はあるのでしょうか。
山中 確定拠出年金の企業にとっての最大のメリットは、従来の企業年金や退職金のように将来の社員への支払責務(将来債務)がないことです。税務上も、退職金の積み立ては損金計上ができませんが、毎月の従業員に対する確定拠出年金の積立金は、掛け金全額を損金計上できるので財務体質の強化につながりますし、将来の退職金支払いという大きなキャッシュフローに備える必要もなく、資金繰りを平準化させることができます。
一方で、事業規模があまり大きくない会社の経営者の場合、確定拠出年金と小規模企業共済制度を自らが併用すると、さらなる節税が可能です。小規模企業共済制度は、拠出額が全額所得控除され、受取時は退職所得控除、あるいは公的年金等控除の対象となり、確定拠出年金と同じ扱いです。
しかし、小規模企業共済制度は個人所得からの拠出になりますが、確定拠出年金の掛け金は会社の経費として損金計上が可能です。経営者自身に拠出をする場合、給与と異なり社会保険料の対象となりませんので、その分会社負担および個人負担の社会保険料も減りますし、個人口座に資金を移動しても所得税・住民税がかかりませんので、法人・個人共に節税効果が高まります。
経営者個人の節税としては、小規模企業共済制度の月額上限7万円と、確定拠出年金の上限5万1000円の所得控除枠を最大限活用し、年間145万2000円もの税金のかからない個人資産を長期的に形成することが可能です。
――制度の併用により、控除枠が拡大するのですね。その他にも、確定拠出年金に関わる制度についてお聞きしたいのですが、"マッチング拠出制度"についてはいかがでしょうか。
山中 拠出額全額が給与所得とならない確定拠出年金は、税制面で大きく優遇されているため、その拠出額に上限が設けられています。特に企業型確定拠出年金では、拠出額の範囲内で、企業が社員の給与に上乗せする企業拠出額を決定するため、拠出額の平均は1万3000円程度といわれ、節税可能な拠出限度額が有効に使われていないという状況です。
そこで、企業拠出に上乗せする形で、かつ、拠出限度額を超えない範囲で、社員が自己拠出して十分な老後資金を準備できる仕組みをつくろうと創設されたのが"マッチング拠出制度"です。
ただし、マッチング拠出で認められた従業員拠出額は、企業拠出額を超えないという制限があるため、現状、十分な効果があるとはいえません。例えば、企業拠出が1万円であれば、従業員拠出の上限額は企業拠出を上回れないため1万円が上限となり、所得控除の認められた拠出額5万1000円に対して、3万円以上の節税枠が利用できないままとなってしまいます。
その一方で、希望者だけが加入する選択制確定拠出年金は、企業が拠出する掛け金と従業員が給与の中から財形貯蓄のように任意で自己拠出する金額が5万1000円の節税枠の範囲内であればよいため、現状のマッチング拠出よりも自由度が高い理想的なプランともいえます。また、マッチング拠出での自己拠出は、いわゆる個人型確定拠出年金の拠出額と同じ扱いとなるため、社会保険料の削減にはなりませんが、選択制であれば、掛け金分が給与減額と見なされるため、労使共に社会保険料負担が軽減されます。
最近では、従来の退職金制度の一部あるいは全部を確定拠出年金に移行する動きも活発になっています。退職金引当金は有税処理ですが、引き当て分を確定拠出年金の企業拠出に充てると、その金額はすべて損金処理ができるので、企業にとっては財務体質の強化につながるからです。
また厚生年金基金に加入中の企業が確定拠出年金を併用して導入したり、基金解散後の資金の受け皿として活用したりと、ますます存在感が高まっています。