レアメタルと呼ばれ、日本を支える高度技術の要となる希少元素。その機能を、鉄やアルミなどのありふれた元素で置き換え、日本を資源大国へと変貌させる国家的なプロジェクト「元素戦略」が注目を集めている。
その立役者である中山智弘氏(科学技術振興機構 研究開発戦略センター・フェロー/エキスパート)と、「元素戦略」の代表的な研究成果の1つであり、現代の錬金術とも呼ばれる「元素間融合」技術を開発した京都大学・北川宏教授をお迎えし、「元素戦略」の現在を具体的に語ってもらった。(構成:畑中隆)

「ロジウム価格が3分の1に!」の衝撃

北川 「ロジウムと銀からパラジウムをつくった」ことは、サイエンスとしては確かに貴重な発見だと、自分でも思います。けれどもロジウムを使っているかぎりは値段が高すぎて、実用価値はゼロなんですよ。最近の価格でいうと、銀は1グラムあたり80円くらい、ロジウムは一時期3万円していましたが現在は4000円ほど、そしてパラジウムは2600円くらいです。4000円のロジウムを使って2600円のものをつくったわけで、研究としては面白くても、出口(商売)としては使えない。こんなことをしていたら大損です。
 税金を使って研究をしている以上、なるべく安い材料で代替することを提案したいですよね。そこで「ロジウム(原子番号45)の両側にあるルテニウム(44)とパラジウム(46)を使って、真ん中に位置する高価なロジウムをつくってやろう」と考え、成功したのが今年の1月末に新聞発表になったものです。ルテニウムは現在、200円くらいです。

           RuとPd からRhをつくる

「元素間融合」が産業に与えるインパクト

中山 ロジウムの需要といえば、やっぱりクルマの触媒ですよね。

北川 そうです。ロジウム需要の9割は自動車の排ガス触媒として使われています。NOx(ノックス)という窒素酸化物を窒素に還元できるのはロジウムしかないからです。パラジウムではどうかという人もいますが、性能が落ちますからロジウムしかない。ところが、9割の需要が自動車ですから、クルマが売れれば売れるほどロジウム触媒が必要になって、一時期、需要と供給とが逆転し、そのために価格も1グラム3万円まで行ったんです。その後、2008年のリーマンショックでクルマの売れ行きがガクッと落ち、ロジウムは供給過多に陥り価格が下がりました。けれども、最近はトヨタが世界トップに返り咲き、再び需要と供給とが接近してくると、またロジウムの値段は上がってきます。

          ロジウムの供給量と用途の推移

「元素間融合」が産業に与えるインパクト