医者との癒着がことあるごとに問題視されてきた製薬業界。グラクソ・スミスクライン(GSK)は今年から、MRの評価基準から売上目標を全廃。さらに、医者への寄付金制度なども根本から見直した。業界では驚きをもって受け止められた“挑戦”の真意を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 津本朋子)

――今年から、MRの評価基準から売上目標を全廃するという、業界で初めての試みに挑戦しました。背景には医者との癒着体質を改め、透明でクリーンな営業体制を築くという意図があるのでしょうか?

 GSKも昨年、中国で不祥事を起こすなど、厳しい状況もありました。ただ、こうした施策を行おうとグローバルのトップが考え始めたのは不祥事がきっかけではありません。もっと前から、こうした路線を志向し始めていました。

 製薬会社の顧客は誰なのか?それはドクターではなく、患者さんです。GSKが営業活動を熱心にすることで、GSKの薬が合わない患者さんにまで提供されるというようなことがあってはなりません。あくまでも、患者さんの状態に合った、ベストの医薬品が処方されなければならないのです。

フィリップ・フォシェ
1980年、パリ大学で法学位を取得、HEC(経営大学院)にて経営管理修士課程(MBA)を取得。84年、ヘキスト・マリオン・ルセルに入社、96年サノフィ・サンテラボに入社、2001年日本法人社長に就任。05年サノフィ・アベンティス・グループのマネジメントコミッティメンバー、09年シニア・バイスプレジデントに就任。10年よりGSK日本法人社長に就任。 Photo  by  Kazutoshi  Sumitomo

 ではMRは何をすべきなのか?一番の使命は、製品情報を正しくドクターに提供するということです。親密な営業活動を行って「(うちの製品を使うように)ドクターの気を変えさせよう」ということは、してはなりません。

 また、ドクターだって、MRとの関係に多くの時間を割くべきではないはずです。本来、患者さんの治療や、大学の教員であれば、学生の教育、さらには研究などに優先的に取り組むべきでしょう。それらをサポートする存在がMRだと考えています。

――とはいえ、これまでMRは売上高を重要視する職業だったはずです。現場からは戸惑いの声が上がったのではないですか?

 いいえ、あまり懸念の声は出ませんでした。日本ではこれまでも、売上は評価基準の一部でしかなく、チームワークを重視するカルチャーだったことも影響しているかもしれませんね。グローバルで見れば、国によっては売上が評価に占める割合が大きいところもあります。そうした地域では、また違った反応があったかもしれませんが。

 また、売上を重点的に考えると、詳細なセールスデータを収拾しなければなりませんよね。どの患者さんに、どのように処方されただとか。当然ながら、それは機密データですから、簡単には手に入らず不正確になりがちです。集めにくいデータを苦労してかき集めて売り込もうとか、複雑なことをしなければなりません。むしろ、売上という評価基準をなくした方が、すっきりするのです。