「万年バイト不足」の職場、何が足りない?

「アルバイト・パートの人手不足」が深刻化するいま、企業は真剣にアルバイト人材の「主力化」に取り組まなければならない――。こうした問題意識の下、東京大学・中原淳准教授とテンプグループのインテリジェンスHITO総合研究所(代表取締役社長:渋谷和久)は、小売・飲食・運輸業界大手7社の協力のもと、全国約2万5000人を対象に、国内でも類を見ない「アルバイト・パート雇用」に関わる大規模調査を実施した。そこで得られたデータ・知見は、2016年秋にダイヤモンド社より刊行予定の書籍『アルバイト・パート[採用・育成]入門』で公開予定だという。

異色のアルバイト人材育成戦略を掲げ、人材業界からも注目を集めているエー・ピーカンパニー副社長の大久保伸隆氏との鼎談もいよいよ最終回。「塚田農場」を採用倍率8~10倍の超人気アルバイトにまで磨き上げ、最近『バイトを大事にする飲食店は必ず繁盛する』を刊行した大久保氏の原体験について聞いた。

(於:塚田農場天王洲アイル店 構成/高関進 写真/宇佐見利明 聞き手/藤田悠・井上佐保子)

働きがいのある店での経験が
アルバイト育成への最短ルート

「万年バイト不足」の職場、何が足りない?大久保伸隆
(おおくぼ・のぶたか)

株式会社エー・ピーカンパニー副社長
1983年生まれ、千葉県出身。大学卒業後、大手不動産会社に就職するが、約1年で退職。2007年4月株式会社エー・ピーカンパニーに入社。08年12月「塚田農場錦糸町店」の店長に抜擢。10年「塚田農場」事業部長、11年取締役営業本部長、12年常務取締役営業本部長、14年30歳で取締役副社長に。アルバイトを含む従業員を、精神的かつ経済的に満足させる独自の経営により、13年経産省主催のおもてなし経営企業選入選、15年厚労省主催パートタイム労働者活躍推進企業奨励賞受賞、16年GREAT PLACE TO WORK(働きがいのある会社)ランキングの日本版で22位に。「ガイアの夜明け」「カンブリア宮殿」など多くのメディアで話題になる。現在は人材開発本部長等を兼任。神戸大学非常勤講師としても活躍。
著書に『バイトを大事にする飲食店は必ず繁盛する』(幻冬舎新書)がある。

【渋谷和久(以下、渋谷)】普通に考えれば、このままいくと人手が足りなくなります。われわれの試算によると、経済成長のペースがこのままで、女性やシニアの参加はいまのままだと、2025年には日本で600万人くらい人が足りなくなる計算です。そうなるとやはり、生産性を上げるしかない。すなわち、いまのように簡単に入れ替わるのではなく、せっかく入社・入店して成長してきた方々が定着できるような文化・仕組みづくりに本気で取り組まないといけないはずです。

僕としては、アルバイトやパートという働き方について、企業側がもっと真剣に向き合っていくしかないと思っているんですが。

【大久保伸隆(以下、大久保)】僕の持論ですが、これからは「いい会社」が増えていくと思っています。しかもいい会社は二極化していくはずです。たとえば、東海道新幹線の停車時間7分で掃除をする「7分間の奇跡」で有名な「JR東日本テクノハートTESSEI」などは、ご年配の方が生き生き働いていらっしゃいます。社員のやりがいを上げる会社ですよね。

一方でそれに気づかない会社、人材に力を入れない会社では、ロボットとか人工知能、デバイスといったテクノロジーを検討していくと思います。どちらがいい悪いではなく、企業の選択なのだと思いますね。

そして、うちは人を生かしていく会社なので、やはり「アルバイト育成」という問題には真剣に向き合わないといけない。僕らだけではなく、そこに気づいている会社はすでに動き始めています。気づけるか気づけないかは、経営者にそういうマインドがあるかどうかです。そうした企業は、これからも人手不足で悩むということはないと思います。逆に、人が足りない会社というのは、別の戦略を考えるしかないでしょうね。

「万年バイト不足」の職場、何が足りない?

【中原淳(以下、中原)】それは人材育成の世界では、ミッションマネジメントに通じる話だと思います。働く個人側に視点を移したとき、応募者8人のうち1人しか採用されないということでしたが、採用されなかった7人は、やはり御社のマインドとかミッションに共感できないと判断されているわけですか?

【大久保】全員ダメというわけではなく、「合う/合わない」の話だと思います。たとえば、8人全員を採用したら、半分くらいは「塚田農場」の考え方に染まってくれるとは思うんですが…。

【中原】軸がはっきりしている組織なので、そこに乗れる人材は一気に成長できるし、乗れない人材はなかなか難しいということですよね。僕は、ミッションマネジメントとは、もともと「踏み絵」に近いようなものだと思っています。この絵を踏めるか踏めないかが大前提。もともと「ミッション」というのはもともと、そのくらい重い言葉なのです。