今回の円高局面においては、実質実効為替レートなどの多国間における物価水準調整を行った指標から見ると、過去の水準との比較で円高と呼ぶほどのレベルにないことから「円高対策など必要ない、特に過去において効果のなかった為替介入などもってのほか」との論調が少なくなかった。

 事実はそのとおりなのだろうが、実際に為替を売買している立場からは違った側面も見えてくる。

 たとえば、実際に米ドル建ての外貨預金を1ドル=100円のときに購入した人が、1ドル=85円時に解約すれば15%の為替差損が発生する。ここで、実質レートの考え方に従えば、物価下落により購買力が増しているので、為替差損は相殺できているということになる。

 輸出企業にしても、ヘッジコストがかかる為替予約を常に100%組んでいるところを除けば、想定レートからはずれれば為替差損が発生する。為替ディーラーやミセスワタナベのような仮儒の投機家や、国内のデフレ分を輸出価格にすべて転嫁できて為替予約のコストも無視できるような大企業であれば、今回のような円高はたいした問題ではないのかもしれない。

 しかし、実際には、売買差損を物価下落によって相殺できていると実感している投資家や輸出企業などはほんのわずかだ。