著書『あなたの仕事は「誰を」幸せにするか?』が話題になっている医療法人KNI理事長の北原茂実氏と、『自分のアタマで考えよう』などのベストセラーで知られるブロガーのちきりん氏。対談の後編は、医療を海外に輸出するなど先進的な取り組みを行う北原氏ならではの視点で、日本の医療の問題をさらに深掘りします。国民総背番号制(マイナンバー)を導入するメリット、そして海外から看護師を招き入れることが「ビジネス」の観点からNGの理由とは?(構成:宮崎智之、写真:田口沙織)

開業医は情報拠点へ
医療に市場原理を働かせよ!

北原茂実(以下、北原) 前回は、2030年に医療・福祉の就業者数が944万人になるという予測を紹介しました。

国民総背番号制に賛成する医師が、<br />外国人看護師の受け入れに反対するわけ北原茂実(きたはら・しげみ)
脳外科医、経営者。1953年、神奈川県生まれ。医療法人社団KNI(Kitahara Neurosurgical Institute)理事長。東京大学医学部を卒業後、同大学病院脳神経外科にて研修。1995年、東京都八王子市に北原脳神経外科病院(現・北原国際病院)を開設。救急・手術から在宅・リハビリテーションまで一貫した医療を提供すべく、現在は医療法人社団KNIとして八王子市内に4施設、宮城県東松島市に1施設を経営している。開設当初より、「世のため人のため より良い医療をより安く」「日本の医療を輸出産業に育てる」の2つを経営理念に掲げ、より多くの人の“幸せ”のため、「医療を変える」数々の斬新な取り組みに挑戦しつづけている。特にカンボジア、ラオス等の海外において「総合生活産業としての医療」を輸出するビジネス的な試みは、大きな注目を集めている。著書に『あなたの仕事は「誰を」幸せにするか?』(ダイヤモンド社)、『「病院」がトヨタを超える日』『「病院」が東北を救う日』(以上、講談社+α新書)。著者の活動情報はこちらから。

ちきりん 今の就業者数が6300万人。単純に考えても6人に一人くらいが医療・福祉分野で働くことになる。医療・介護・福祉が国内で最大の産業になるということですね。

北原 しかし、問題はこの944万人がワーキングプアになる可能性があるということです。だから、医療費を上げる必要がある。さらに、もっと先を考えると、団塊の世代が亡くなった後には、逆に医療者が余ってしまうということが起きる。したがって、医者や看護師をひたすら養成するのではなく、大局的には人手がいらない医療にしていく必要があります。コンビニがなぜ興隆を極めたのかというと、あそこは商品を売る場所というだけではなく、広義には情報を売る場所だったからです。開業医も情報拠点として、自分たちがどうあるべきかをこれからは考えなければいけない。
 今医者がやるべきことは、医療のプロとして「医療はどうあるべきなのか」を考え、伝えていくことです。教育も含めて考えなければいけない。我々の考える「医療」を実践する医者が増えなければいけません。そうすれば、日本はもう少しまともな国になると思っています。

ちきりん たしかに医療に関しては、情報提供や教育だけでも大きなニーズがあると思います。体力が衰えた高齢者が大きな病気をした場合、医者から「手術もできるけど、しないという選択肢もあります」と言われることがあります。ところがそんなことを言われても、患者や家族としてどう判断すればいいのか、まったくわからない。せいぜい「先生がいいと思う方法でお願いします」くらいしか言えない。そんなとき、もし家の近所に、医療相談に応えてくれる開業医がいたら、保険が適用されなくても、自費でお金を払ってでも相談したい、話を聞きたいという人はたくさんいると思います。患者にとって、医療関係者に求めるニーズは、治療だけではないんですよね。

北原 その通りですね。