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いま世界の哲学者が考えていること
【第6回】 2016年9月20日
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岡本裕一朗

いま世界の哲学者が考えている「5つの問題」とは?

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世界の哲学者はいま何を考えているのか――21世紀において進行するIT革命、バイオテクノロジーの進展、宗教への回帰などに現代の哲学者がいかに応答しているのかを解説する哲学者・岡本裕一朗氏による新連載です。いま世界が直面する課題から人類の未来の姿を哲学から考えます。9/9発売からたちまち重版出来の新刊『いま世界の哲学者が考えていること』よりそのエッセンスを紹介していきます。第6回は世界の哲学者がいま考えている「5つの問題」について解説します。

世界の哲学者は今、「何」について考えているのか

私たちがいま生きているこの時代は、かつてない速度での世界の変化を経験している時代といえるでしょう。本連載では現代において「世界の哲学者は今、何を考えているのか」を扱っていますが、科学技術が発達したこの時代において哲学などいったい何の役に立つのか、と反論されるかもしれません。最近では、哲学は社会的に無用である、という声さえ聞こえてきます。

ただ歴史を眺めてみれば、時代が大きく転換するとき、哲学が活発に展開されているのが分かります。たとえば、中世から近代へと移行する時期、近代科学が形成されるとともに、羅針盤や活版印刷技術が普及しました。それによって、グローバルな経済活動が引き起こされたり、宗教改革が進展したり、近代国家が組織されたりしました。こうした社会的な変化に対応するように、哲学として大陸合理論やイギリス経験論が勃興しています。

こうした時代転換に匹敵する出来事が、まさに現代において、進行しているのではないでしょうか。たとえば、20世紀後半に起こったIT(情報通信技術)革命BT(生命科学)革命は、今までの社会関係や人間のあり方を根本的に変えていくように見えます。
また、数百年続いてきた資本主義や、宗教からの離脱過程が、近年大きく方向転換しつつあるのは、周知の事実となっています。さらに、近代社会が必然的に生み出してきた環境問題も、現代においてのっぴきならない解決を迫っています。こうした状況をトータルに捉えるには、どうしても哲学が必要ではないでしょうか。

今回はそんな現代において哲学者が取り組んでいる以下の「5つの問題」について概観したく思います。どの問題も、根本的な問題ばかりなので、解決には程遠いかもしれませんが、少なくとも問題の所在については確認できると思います。

(1)「IT革命」は、私たちに何をもたらすか?
(2)「バイオテクノロジー」は、私たちをどこに導くか?
(3)「資本主義」という制度に、私たちはどう向き合えばいいか?
(4)「宗教」は、私たちの心や行動にどう影響をおよぼすか?
(5)私たちを取り巻く「地球環境」は、どうなっているか?

それでは大まかに一つずつみていくこととしましょう。

「IT革命」は、私たちに何をもたらすか

IT革命ははじまった当初、それがどんな地平を切り拓くのか、具体的に構想できた人はそれほど多くなかったように思います。しかし、21世紀になると、その射程が少しずつ見えてきました。
ロボット、自動運転車やアルファ碁などに活用される人工知能の出現、SNSの普及による独裁国家の打倒、フィンテックに代表されるIT技術の汎化、スマートフォンという「携帯電話」以上の意味を持つガジェットの普及――。

一般的に考えても、技術(テクノロジー)が人間の社会生活に影響を与えることは、当然のように思えます。ところが、今日進行中のIT革命は、社会の単なる周辺的な現象ではなく、むしろ時代の中心的な出来事なのです。哲学者にITに関する議論は様々ですが、ここでは近年非常に現実味を帯びている、ジル・ドゥルーズによって提出された「管理社会」の概念を紹介します。

あらかじめ確認しておきたいのは、「管理社会」という場合、個々人が外部から強制されるわけではなく、自分の意志にしたがって自由に行動できることです。それにもかかわらず、個々人はいつでもどこでも「管理」されるわけです。自由と管理はメダルの表裏のように一体をなしています。
こうした現代の「管理社会」で活用されるのが、情報機器とコンピュータにほかなりません。個々人は、自由な行動の瞬間ごとに、チェックされ記録されていきます。そのデータが、自動的に蓄積されていくわけです。

もともと、個人(individus)という言葉は「分割不可能」という意味だったのですが、「管理社会」では個人はその都度細分されていき、その情報が記録されていきます。つまり、個々人は、断片的な情報にまで分割され、それらがたえず記録されていくのです。

カードで買い物をし、ナビを使って車で移動し、パスモで電車に乗り、Googleでネットサーフィンを行ない、Twitterで発信し、メールで商談をする─このそれぞれの行動は、逐一管理されていくのですが、おそらく私たちには管理されているという意識はないでしょう。

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岡本裕一朗[玉川大学文学部教授]

1954年、福岡に生まれる。九州大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。九州大学文学部助手を経て、現在は玉川大学文学部教授。西洋の近現代思想を専門とするが、興味関心は幅広く、領域横断的な研究をしている。
著書に、『フランス現代思想史―構造主義からデリダ以後へ』(中公新書)、『思考実験―世界と哲学をつなぐ75問』『12歳からの現代思想』(以上、ちくま新書)、『モノ・サピエンス―物質化・単一化していく人類』(光文社新書)、『ネオ・プラグマティズムとは何か―ポスト分析哲学の新展開』『ヘーゲルと現代思想の臨界―ポストモダンのフクロウたち』『ポストモダンの思想的根拠―9・11と管理社会』『異議あり! 生命・環境倫理学』(以上、ナカニシヤ出版)、共著に『ヘーゲル入門』(河出書房新社)、『差異のエチカ』(ナカニシヤ出版)、共訳にトマス・ネーゲル『哲学ってどんなこと?―とっても短い哲学入門』(昭和堂)などがある。


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