今「がん」に関する情報があふれています。芸能人でもがんを公表する人がいるため、ある意味、よく聞く病気になりました。しかし、情報があふれているゆえに、本当に正しい情報はなんなのか……迷う人が多いのも事実です。
そこで、がん患者さんに日々接している現役の国立病院の内野三菜子医師が、がんの主治医に聞きにくいようなことや、知っておいたほうがいいことなどを解説した本『身近な人ががんになったときに役立つ知識76』を発売。この連載では、その本の中から気になるところを紹介していきます。

上皮内がんというのは
ステージ0のがん

 上皮内がんは、がんではないの?

「上皮内がん」というのは、がんのステージでいえば「0期」のがんです。
「がん」というのは、正式には「悪性新生物」といいます。そして「上皮内がん」は、正しくは「上皮内新生物」と呼ばれるもので、細胞内でがんができた場所の違いから「悪性新生物」=(がん)とは区別されています。

 臓器は、何層もの細胞が積み重なって作られていますが、臓器の表面にある「上皮」の下に「基底膜」という薄い板のような膜があり、臓器の深部の細胞と区切られています。人間の体は、この上皮と基底膜で守られているので、上皮部分にがん細胞ができても、一定期間は上皮内にとどまっています。これが「上皮内新生物」で、がん細胞が深部まで入り込んでいないので、「非浸潤がん」ともいいます。

 上皮内新生物は、体のほかの部位に転移がなく、がん化した細胞を完全に取り除ければ治る可能性が高いので、比較的簡単な局所切除などで済むのが一般的です。

 一方、がん化した細胞が基底膜を超えて、「間質」という部分まで広がってくると「悪性新生物」になります。がん化した細胞が基底膜を破って臓器の深部まで入り込んでくると、がんが周囲に染み出るように広がりだします。この状態は「浸潤がん」とも呼ばれます(ただし、すべての悪性新生物が上皮から臓器の奥のほうへ浸潤していくプロセスをたどるわけではありません)。