東日本大震災から早くも1ヵ月が経過した。被害の全貌が未だ分からず、福島原発事故も決着の糸口が見えない状態が続いているうえ、余震も止むことがない状態だ。そんななか、被災者はもちろんのこと、首都圏を中心とした被災地域外でも大きなストレスを感じている人が少なくないという。なぜこうした現象が被災地域にとどまらず、広範囲にわたり起きているのだろうか。そして、大きなストレスを感じる被災者や被災者以外の人たちが、心の安定を得るにはどうすべきだろうか。災害時の心理に詳しい元東京女子大学教授・広瀬弘忠氏に、災害時における心理とその後求められる適切な心のケアを聞き、今こそ必要な“震災ストレス”への対処法を考える。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)

災害の複合性や繰り返される悲惨な映像により
被災地域以外の人も“擬似被災者”に

――今回の大地震は、被災者はもちろんのこと、被災地域以外にも大きなショックと精神的な不安をもたらしています。全国の被災者以外の方にもこうした心理状態が広まっているのはなぜでしょうか。

ひろせ・ひろただ/災害心理学者。元東京女子大学教授。1942年東京生まれ。東京大学文学部心理学科卒業後、東京大学新聞研究所助手を経て1983年より東京女子大学教授に。30年以上に渡る研究で災害心理学という分野を確立。著書は『災害に出会うとき』『人はなぜ逃げ遅れるのか』『無防備な日本人』『人はなぜ危険に近づくのか』『生と死の極限心理』など多数。

 やはり今回の地震がもたらした『広範囲にわたる被害の甚大さ』、『災害の複合性』、『メディアの反復性』という様々な要素が重なったことが大きいでしょう。被害を受けていないように見えても「自分たちも災害と無縁ではない」という意識が全国に広がっており、実際、被災地域から離れている京都や大阪でも人々の不安が大きくなる傾向が見られています。

 まず、マグニチュード9.0という史上最大規模の地震、そして甚大な被害な被害をもたらした津波、二次災害である福島原発事故の発生という『広範囲にわたる被害の甚大さ』『災害の複合性』はこれまでにないものです。

 “自分たちも同じ船に乗っている”という感覚から、「運命共同体意識」が強くなります。日本中に広がった自粛ムードもその表れです。災害心理学的にいえば“非常時規範”が自然に生まれ、ショックや不安とともに、お互いに助け合おうという雰囲気が全国に広がっているのだと思います。

 そして、大津波などの悲惨な映像を繰り返し流すような『メディアの反復性』も、被災地から遠くにいる人たちのショックや不安を駆り立てています。これらの映像を見た人たちを“擬似被災者”にしてしまっているのです。