韓国のセブン-イレブンで今、日本のロングセラースイーツが飛ぶように売れている。岡山県の乳業メーカー、オハヨー乳業の「ジャージー牛乳プリン」だ。コロナ禍以降、訪日旅行者の間でその味が話題になり、昨年末から韓国で海外初のテスト販売を始めたところ、「即完売」が続いているという。
「牛乳そのものが日本はすごくおいしい、と品質の高さが評価されています。その上で、本商品の濃厚な牛乳の風味と軟らかなプリンの食感が新鮮で、大きく支持されているようです」と話すのは、同社デザート・フローズンユニット責任者の大塚昌宏氏だ。「もともと日本の牛乳プリン市場ではシェアナンバーワン※の商品でしたが、韓国でのヒットは想定外でした。この話題が波及し、日本の売り上げも伸長しています」。

濃厚でコクのあるジャージー乳を使用したミルクプリンに、滑らかなクリームをのせた2層構造により、優しい舌触りと味わいの変化、乳の味を存分に楽しめる。そんな「ジャージー牛乳プリン」は、「乳の価値」にとことんこだわるオハヨー乳業のモノづくりを象徴する商品であり、真摯な姿勢が日本国内外での人気につながっているのだ。
※ジャージー牛乳プリンブランドとして インテージSRI+ 牛乳プリン市場 2022年10月~24年9月 累計販売金額
「乳の価値」向上を目指した妥協なき商品作り
1953年の創業以来、同社では原材料からこだわり、手作り感のある商品作りを追求してきた。とはいえ、高度経済成長期には大量生産を余儀なくされ、バブル崩壊後には価格競争の激化という時代の大波にのまれて、自ら「乳の価値」を軽んじてしまった時期もある。その反省から、「今は原点に立ち返り、『乳の価値』を問い直しているところ」(大塚氏)だという。
「乳の価値」をどう捉え、いかに表現するか──。「ジャージー牛乳プリン」の場合、国内の乳牛全体のわずか0.8%という希少種、ジャージー牛の乳を使用している点がまず挙げられる。
「その乳質は、一般的なホルスタイン牛の乳と比べて脂肪の割合が高く、デザートに向いています。当社の地元、岡山県はもともとジャージー牛の産地。当社の定番商品『新鮮卵のこんがり焼プリン』に続くこだわりの詰まった商品の原材料として、また希少なジャージー牛を飼育されている地元の酪農家さんたちの頑張りに応えるという意味で、ジャージー乳はこれ以上ない素材でした」。そう説明するのは、同社執行役員の三宅俊夫氏だ。

同商品の発売は99年、プリンといえばカスタードが当たり前の時代だった。そのため「牛乳プリン」という目新しさが注目され、好調な出だしを切ったが、消費者の興味が一巡すると売り上げは伸び悩んだ。「『おいしい』と言われるのに売れない悔しさ」(大塚氏)から、2016年にリニューアルに踏み切った。
「品質とおいしさには自信がありましたが、牛乳の持つ“優しさ”を食感以外で表現できていませんでした。そこで工業的なパッケージデザインから丸みを帯びた形状に変え、手作り感を際立たせました。また、売れなかった時代には特売になることもありましたが、ジャージー乳の価値をおとしめないよう、価格も適正水準に引き上げました。その結果、中身と外見が一致したことでお客さまに商品価値が伝わり、売り上げがリニューアル前の10倍に伸びたのです」(大塚氏)

24年度には、前年度比140%を達成し、過去最高の売り上げを記録。プリン市場における「牛乳プリン」の占有率が約1割を占めるまでに成長した。
また、品質にふさわしいプレミアム感のある価格帯(希望小売価格194円、税込み)と、濃厚な乳の味と2層構造が生む奥行きのある味わいにより、「プリン=子ども向け」という従来のイメージを刷新。「大人も楽しめるプリン市場」を切り開き、市場全体の活性化にも寄与した。仕事や家事の合間にほっと一息つける“癒やしのご褒美”として存在感を発揮し、「乳の価値」を身近に伝える役割を担っている。
酪農家と消費者をつなぐ、乳業メーカーの使命感
「乳の価値」を追求する同社では目下、酪農家と消費者をつなぐ「ミルクサプライチェーン」の構築と強化に最も力を入れている。高品質な乳製品作りを通して、酪農家と信頼関係を築き、価値を消費者へ伝える。それにより、酪農家へ適正に利益が還元される。持続可能な循環構造を目指しているのだ。

「地元の酪農家さん、牧草を作る農家さん、農業協同組合と共に協議会を設立し、スモールスタートから、乳の生産性や価値の向上・周知に取り組んでいます」と三宅氏。背景には、酪農や乳製品作りに対する使命感、そして危機感がある。
「おいしい商品を作るには、質の良い乳が必要です。そこには、牛の餌となるいい牧草、酪農家さんによる丁寧な牛の世話、酪農家さんと私たちの信頼関係が不可欠です。さらには、お客さまに『乳の価値』を理解していただかなければなりません。やはりメーカーである私たちが先頭に立ち、皆さんをつないでいく責任があるだろうと考えています」(三宅氏)
一般社団法人中央酪農会議の調査では、酪農家の約85%が赤字経営に陥っているという。価格競争の激化で、生乳は生産コストに見合わず安く取引され、加えて長年依存してきた安価な輸入飼料も、円安の影響で価格が高騰。日本の酪農は、厳しい現実に直面している。
これを受け、同社では「大地に生えた草を牛が食べ、牛のふんが土を肥やし、そこからいい草が育って、また牛が食べる。そういった持続的な好循環を生む仕組みに戻していけるよう、酪農家さんと話し合いを重ねている」と三宅氏。自社社員の酪農研修を実施したり、逆に酪農家を自社工場に招いて商品作りを見学してもらったりと、相互理解を深めながら、双方の価値を高めていく道を模索している。

同時に、「売り上げやシェアを追い掛けるのではなく、商品の定番化に向けて『育てていく』という意識を第一に、価値を高める循環づくりを酪農家さんと共に進めていきたい」と大塚氏。さらに、ミルクサプライチェーンの「出口」である消費者に対して、「乳本来の価値をより実感いただける商品作り、情報発信にも努めたい」(大塚氏)という。
「ジャージー牛乳プリン」にとどまらず、牛乳を含む日本の乳製品が今、中国や台湾でも売れ筋となっている。この流れを一過性のもので終わらせず、いかに定着させるか。オハヨー乳業の挑戦は、むしろこれからが本番だ。
「日本の牛乳の質がいいのは、酪農家さんの尽力のたまもの。頑張った人が報われ、価値が正しく評価される社会にしたいですね。私たちが目指すのは、“世界で一番『乳』で感動を生む会社”。その感動こそが日本の酪農界への貢献につながると信じています」(三宅氏)

オハヨー乳業株式会社
本社 〒703-8505 岡山県岡山市中区神下565
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