「経済×地理」で、ニュースの“本質”が見えてくる!仕事に効く「教養としての地理」
地理とは、農業や工業、貿易、交通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問です。
地理なくして、経済を語ることはできません。
最新刊『経済は地理から学べ!』の著者、宮路秀作氏に語ってもらいます。
メキシコがわかれば、アメリカもわかる
自動車という非常に便利な輸送手段をいかにして手に入れるか? これはとても重要なことです。自動車があれば、人々の行動範囲が飛躍的に拡大するからです。
本日は、世界的な自動車生産国であるメキシコに焦点を当てます。メキシコを知ることで、「なぜアメリカがTPP離脱をしたか」をより深く理解できるようになるでしょう。
メキシコの自動車産業は、「お金持ちがたくさん住んでいる」アメリカ合衆国に向けた自動車の生産拠点として、1980年頃より活発になります。
1994年になるとNAFTA(北米自由貿易協定)が発効。日本やアメリカ合衆国の自動車企業の進出が増加し、生産台数が増加しました。
2013年は、生産台数305万5000台に対して、242万3000台を輸出。生産台数に対する輸出割合は79.3%です。
では、なぜメキシコへの海外自動車企業の進出が進んだのでしょうか? 理由は3つあります。
まず1つ目に、日本やアメリカ合衆国、ドイツと比べて、メキシコの低い賃金水準があります。さらに人口が1億2700万人と多く、安価で豊富な労働力が存在することは、生産拠点を設置する際に重要です。またメキシコの賃金水準は、この25年間ほぼ横ばいで推移しています。これは、メキシコではアメリカ合衆国ほど労働組合が強くないので、賃金上昇の抑制が働くためです。
2つ目に、アメリカ合衆国に対する物理距離が小さく、また地続きであるという、地理的有利性を持っていることです。カナダと異なり、南北アメリカ大陸の中央部に位置していることから、アメリカ合衆国だけでなく中南アメリカ諸国への輸出も容易です。
さらに太平洋にも大西洋(正確にはメキシコ湾)にも面していることから、アジア市場やヨーロッパ市場へのアクセスも容易です。太平洋側のラサロカルデナス港と、大西洋側のベラクルス港は自動車輸出基地として知られています。このような地理的特性も有利に働いています。
3つ目に、メキシコは45ヵ国以上(EU含む)とFTA(自由貿易協定)を締結していることです。
メキシコは、1982年の債務危機をきっかけに市場開放を進め、現在は世界中の自動車市場にアクセスすることが可能になっています。
日系企業としては、「日本で作ってアメリカ合衆国に輸出する」と関税がかかりますが、「メキシコで作ってアメリカ合衆国に輸出する」と関税がかかりません。このことからも、メキシコの自動車輸出が盛んなことがわかります。
しかし、輸出割合が高いということは、今後の生産台数の増加を支えるだけの社会資本整備の拡充は欠かせません。
また、中国、インド、ブラジルの台頭で、アジア市場や南アメリカ市場への優位性を失う可能性もあります。アメリカ合衆国市場への依存型では、いずれ限界がくるでしょう。
メキシコの自動車産業の成長のカギは、国内市場です。今後、メキシコ国内の自動車購買層が拡大すれば、人口大国だけに魅力的な市場へと成長する可能性を秘めています。また、高級車市場への参入も今後の成長にとっては重要な要因の1つとなりそうですね。
宮路秀作(みやじ・しゅうさく)
代々木ゼミナール地理講師、日本地理学会企画専門委員
鹿児島市出身。「共通テスト地理」から「東大地理」まで、代々木ゼミナールのすべての地理講座を担当する実力派。地理を通して、現代世界の「なぜ?」「どうして?」を解き明かす講義は、9割以上の生徒から「地理を学んでよかった!」と大好評。講義の指針は「地理とは、地球上の理(ことわり)である」。生徒アンケートは、代ゼミ講師1年目の2008年度から全国1位を獲得し続けており、また高校教員向け講座「教員研修セミナー」の講師や模試作成を担当。いまや「代ゼミの地理の顔」。2017年に刊行した『経済は地理から学べ!』はベストセラーとなり、これが「地理学の啓発・普及に貢献した」と評価され、2017年度の日本地理学会賞(社会貢献部門)を受賞。大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」にも加わり、2021年より日本地理学会企画専門委員会委員となる。「Yahoo! ニュース」での連載やラジオ出演、YouTubeチャンネルの運営など幅広く活動。
「土地と資源の奪い合い」から、経済が見える!
経済を動かしているのは地理である。
世界の経済情報を観察していると、そう思えることが多々あります。
なぜ、土地も資源もない日本が経済大国になれたのか?
なぜ、中国は2015年に一人っ子政策をやめたのか?
なぜ、トランプ大統領はTPPから離脱したのか?
これらの因果関係を解明するヒントは「地理」に隠されています。
地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、交通、人口、宗教、言語、村落・都市にいたるまで、現代世界で目にする「ありとあらゆる分野」を学びます。
「地理」を英訳すると「Geography」です。これはラテン語の「Geo(地域)」と「Graphia(描く)」からなる合成語といわれています。
現代においては、写真を1枚撮るだけで、自然はもちろんのこと、そこで暮らす人々の衣食住、土地利用など、実にさまざまな情報が写し出されます。
しかし、カメラが存在していなかった時代は、これらの情報をすべて描き出していたのです。まさしく「Geo(地域)」を「Graphia(描く)」。これが地理の本質なのです。
地理とは、表面的な事実の羅列ではありません。「地域」に展開するさまざまな情報を集め、分析し、その独自性を解明するものです。地理を学ぶことで、土地と資源の奪い合いで示される人間の行動に、より深い解釈を加えることが可能です。
仕事に効く「教養としての地理」
本書『経済は地理から学べ!』は、「立地」「資源」「貿易」「人口」「文化」という5つの切り口から、今と、そして未来をつかむための視点を提供します。
地理では、さまざまな要素がかかわり合って「物語」が成り立つことを「景観(けいかん)」といいます。現代世界を単なる出来事として頭に残すのではなく、「誰かに話したくなる」ような、背景知識を持っているだけで世界は面白くなります。
本書を通して、世界の「今」を見定め、そして「未来」を先取りしてください。
『経済は地理から学べ!』
6万部突破のベストセラー!
「立地、資源、貿易、人口、文化」を知れば、世界はこんなに面白い!
★トランプのTPP離脱を読むカギは“国境”
★日本経済を秘かに支える“水の力”とは?
★EU経済の急所は“2つの河”にあり
地理とは、地形や気候といった自然環境を
学ぶだけの学問ではありません。
農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。
地理という“レンズ”を通せば、ダイナミックな経済の動きを、手に取るように理解できます。
【目次】
序章 経済をつかむ「地理の視点」
第1章 立地:地の利を活かした経済戦略
第2章 資源:資源大国は声が大きい
第3章 貿易:世界中で行われている「駆け引き」とは?
第4章 人口:未来予測の最強ファクター
第5章 文化:衣食住の地域性はなぜ成り立つのか?
特別付録「背景がわかれば、統計は面白い」
地図で読み解く44の視点
地理がわかれば、世界はもっと面白い!