東日本大震災から2ヵ月あまり、被災地をはじめ全国の人々は不安な気持ちを払拭できずにいる。首都圏以西に住む人々は以前より落ち着きを取り戻しつつあるものの、原発事故は終息しておらず、GWをまたいでも気分が晴れない。「被災地のためにできることは何か」と前向きに考える一方、巷の情報に対して一喜一憂を続けている。3月11日以降、我々はいまだ地に足がつかず、自分自身を見失っている状態と言えまいか。その理由として、自分の気持ちや行動を客観的に見つめ直すための指針を与えてくれる専門家が、世の中に少ないことが挙げられる。今回は、日本に数えるほどしかいないと言われる災害社会学の専門家の1人、関谷直也・東洋大学准教授に話を聞いた。大震災後、我々を取り巻く環境はどう変化したのか。そして、我々がとってきた行動の意味とは何か。改めて振り返ってみよう。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)
全国に広まる「災害ユートピア」的心理
お互いを支援することが復興への高揚感に
――東日本大震災は、日本国民の心理に大きな影響を与えた。とりわけ衝撃が大きかったのは、福島原発事故による放射能漏れ不安だ。人々は以前よりも落ち着きを取り戻したとはいえ、いまだに不安を払拭できない。今回の震災で見られた人々の心理や行動様式には、どんな特徴があるか。
東日本大震災の特徴は、最も被害が大きかった東北三県(福島、宮城、岩手)の被災者とは別に、遠く離れた地域にも不安を抱える人々が多く見られることだ。地震の規模がかつてないほど広域だったこともあり、東日本全域から果ては関西に至るまで、住民は不安を抱えている。
たとえば、深刻な被害を受けなかった首都圏でも、大地震発生直後に通信・交通インフラがマヒして、大量の帰宅困難者が出るという異常事態が発生した。そのため、首都圏に住む人々の心理は「被災者そのもの」と言える。
このことは一方で、災害社会学で言う「災害ユートピア」という状況を全国に生み出している。「災害ユートピア」とは、人々が災害後にお互いを支援し合うことで高揚感が高まる現象だ。これは本来、被災地で見られる現象だが、今回は被災地以外の地域でも広範囲に見られる。