「岩崎さん、小説書けますか」

――最初に岩崎さんにお会いした印象は?

加藤 何せ、お名前どころか、女性か男性かもわからない状態だったんです。最初は会社に来ていただき、その時になって岩崎さんが放送作家をやられていることや、秋元康さんの事務所でお仕事をされていたことなど、人となりを知ることになりました。あと、この「もしドラ」の原稿は、ブログに書くネタがなくて、昔に書いたまま寝かせていた映画のシノプシスを乗せたという話もそこで聞きました。初対面でしたが、4、5時間話していたんじゃないでしょうか。

――そこからいまの『もしドラ』の執筆がはじまった?

加藤 これは岩崎さんがよく講演でお話されるのですが、僕は「岩崎さん、小説書けますか」と言ったそうなのです。というのも、ブログの原稿は5000字の粗筋だったので、これを小説にしないといけないんです。僕は何も考えずにそういいましたが、この言葉は岩崎さんにとっては意味のある言葉だったようです。というのも、岩崎さんは何年も前に作家を志して文芸賞などに頻繁に応募していたそうなんです。でも上手くいかなくて諦めて、しばらく大人しく暮らしていたらそうなんです。そんな頃に、何も知らない僕がそんなこと言ったんですね。

――いま考えるとかなり失礼な話に聞こえるね。

加藤 じつはさらに続きがあるんですが、この時に岩崎さんが「僕はこれ、200万部売りたいんですよ」っておっしゃったんです。

 僕は、もうお説教のように出版界の実情を話しましたよ。つまり10万部売れたら大ヒット、100万部とか業界でも年に1冊あるかないか。だから200万部とか「そういうのって、本当にないですから」と10分くらいコンコンと諭しました(笑)。

 そのうえで「10万、20万部を目指しましょう」と話しました。と言っても岩崎さんはその言葉に納得していなかったかもしれません。

――初めての著書で「10万狙いましょう」って、編集者としては、相当狙っている発言だけど。

加藤 そうですよね。200万部はおいておいたとしても、本気で10万、20万部を狙おうと思っていました。でも結果的に岩崎さんが最初におっしゃったようになったんですから、僕の発言は、弱気だったということになりますね(笑)。

*「ベストセラーは狙って出せるもではない」と言われますが、『もしドラ』は明らかに狙っていたのは見事! ただビッグマウスの加藤君でさえ、著者の「200万部発言」を袖にしています。次回はあの装丁が生まれたアイデアについて語ってもらいます。