企業の利益率が下がった時代は<br />人事制度に手を入れる必要が出てくる慶應義塾大学大学院 経営管理研究科
岩本 隆 特任教授
日本モトローラ、日本ルーセントテクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリーム・インキュベータで、半導体、通信、光アクセスなどを研究。技術系企業の経営支援、技術の産業化のプロデュースを手掛ける。2012年より現職で、「産業プロデュース論」をテーマに研究を行う

 日本企業の生産性が低いと言われて久しい。その背景としては、主に終身雇用や年功序列といった日本独特の人事の仕組み、また株主からのプレッシャーが低いことにあると言えるだろう。

 高度経済成長時代は、利益率を高めることよりも売上高を伸ばすことが重視されていたため、日本独自の人事制度がうまく回っていた。また、利益率が低くても、株主がプレッシャーをかけることもあまりない。株式持ち合いという、これも日本特有の仕組みがその一因ともなっていた。

 しかし今、日本企業の利益率や生産性の低さが問題視されつつあるのだ。それはとりもなおさず、企業の変革、特に人事変革に取り組まなければならないことを意味する。そのため、AI、アナリティクスやソーシャルなどの最新技術を人事業務変革に活用しようという動きが「HRテクノロジー」として今注目され始めた。

求められる日本企業の変革

 これまで生産性の低さが黙認されてきたにも関わらず、最近になって日本政府が「働き方改革」を推進するなど、生産性向上が声高に叫ばれるようになってきている。今、生産性の向上は日本経済にとって極めて重要であるためだ。

 その理由は、2008年のリーマンショックにまでさかのぼる。当時、日本の主要産業は製造業だったのだが、リーマンショックによる円高の影響で製造業が大打撃を受けた。これを機に、日本のGDPに占める製造業の比率が下がり、今ではGDPの75%がサービス産業で占められるようになっている。また、GDPの約20%を占める製造業においても、製造業をサービス化することで付加価値を高めることが必要となってきており、そういった意味では、日本のあらゆる産業がサービス業化していると言える。

 サービス業では、人件費が直接コストとして大きくのしかかる。つまり、人材の生産性を高めることが非常に重要なのだ。また、日本では「サービス=無料(もしくは安価)」というビジネスカルチャーが浸透していることも、サービス業全体としての生産性が低い要因となっている。