英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今週は元に戻って原発についてです。「原発は安い、脱原発は高すぎる」と繰り返される経済界や一部メディアの警告などどこ吹く風で、世論調査に答えた7割が「脱原発」に賛成しているという話のほか、そもそも本当に原発の電力は安いのだろうかなどについて。(gooニュース 加藤祐子)

脱原発に賛成7割だが

 本論に入る前に、まず先週は「なでしこ優勝」についてのコラムに多くの反響をいただきました。ありがとうございます。改めて、なでしこおめでとうございます! そしてついさっき、「日本、米国に敗れ準優勝 ソフトボール女子W杯」(共同通信)というニュースに接し、いくら一人の人間(しかもスポーツに詳しいとはとても言えない人間)がすべてのスポーツをフォローするのは不可能とは言え、ESPNで記事を見るまでそういう決勝戦があることさえ知らなかったのはウカツすぎないか、なでしこと何が違うのだと当惑していたところです。女子サッカーが男子サッカーとどう違うのだという以上に。いくらここ数日、ノルウェーとアメリカのニュースばかり見ていたとは言え……。

 それにしても当惑といえば(はい、強引につなげました)、共同通信が23~24日に実施した世論調査の結果です。菅直人首相が表明した「脱原発」方針に対し、「賛成」と「どちらかといえば賛成」を足すと計70.3%という結果にまず。それが「民意」ならばいったい経済界や一部マスコミの「反・脱原発」キャンペーンは何なのかと。あるいは、原発推進派の首長がこぞって当選した4月の統一地方選はなんだったのかと。そしてさらに。首相の脱原発方針には賛成だが、内閣支持率は17.1%と発足以来最低だというこの「ねじれ現象」に。当惑しています。

 AFP通信はこれについて、「将来的に日本を原発のない国にしようという中道左派の菅直人首相の政策を、日本の70%が支持している。だが、ほとんどの人はそれでも首相の退陣を願っている」という、皮肉な書き方で紹介しています。

「どっちやねん」と言いたい気分が透けて見えます。私も言いたいです。ただし私の周りの狭い世間の「民意」も専ら、この世論調査の結果に則しているのです。誰か別の首相のもとで脱原発を推進したいと、そういうことなのでしょうか? 日本人は、迷っている。自分たちの国をどうしたいのか、日本のあちこちで悩んでいる。そう思います。だったらいっそのこと、原発をどうしたいのか、どういう国になりたいのか、国を挙げての議論を(米大統領選なみの時間と手間暇をかけて)繰り広げればいいのにとも思っています。

 共同通信の査結果を受けてロイター通信のベテラン記者、リンダ・シーグ氏は、首相の脱原発ビジョンが「『原発ムラ(nuclear village)』と呼ばれる、原発に関わる政官財の中枢を震え上がらせた」と書いています。

「原発を継続する方が日本にとって高くつくかもしれない」という見出しのこの25日付記事で、シーグ記者は「日本は原発を使わない国になれるのか?」と切り出しています。原文は「Can Japan afford to go nuclear-power-free?」。「afford to」は直訳すれば、「それだけの余裕があるのか、それだけの金があるのか」など。金銭が関係しない場合でも使いますが、ここでは経済的可能性、金銭の問題に落とし込んでいます。原発の是非に関わる倫理や環境の命題はひとまずおいて、これからの経済の話をしようというわけです。

「脱原発→電力価格高騰→日本の産業空洞化」となるから脱原発は「No」だというのが原発産業や多くの大企業の主張だが、果たしてそうだろうか。安全性を重視する有権者や未来を見据えた企業はむしろ、日本が国際競争力を維持するには従来のやり方にこだわっていられないと考えているとシーグ記者は書きます。

 記事でJPモルガン証券のイェスパー・コール株式調査部長は、日本が蓄電池や太陽電池などで世界をリードしたいなら、1年以内にトップの座を獲得しなくてはならないし、そのためには政府の後押しが必要だと指摘しています。

 富士通総研のエコノミスト、マーティン・シュルツ氏も同じ記事で、休止中の原子炉がこのまま再稼働できなければ、「原発エネルギーの不足で1~2年間は(経済的に)苦しむだろうが、その苦痛は過去に由来するもの。未来のチャンスに意識を向ければ、同じ痛みでもそれほど痛くは感じなくなる」と発言。

 モルガン・スタンレーMUFG証券のロバート・フェルドマン経済調査部長は、そもそも廃炉コストや使用済み燃料の処理コストなどを含めれば思われていたほど原発は安くないと指摘しています。

原発コストに含まれていないのは

 原発のキロワット時あたりの発電コストがほかの発電方法に比べて実は言われているほど安くないとは、よく指摘されています。上記した廃炉コストや使用済み燃料の処理コストのほか、電源開発促進税(電気代に含まれ、原発立地交付金などに使われる)でまかなっている費用、そして今回のような事故が起きたときの補償コスト……。金額にできないあまたの喪失、あまたの苦痛、あまたの悲しみはやむを得ず度外視して、数字にできるものだけを諸々計上したら、それだけでも、経産省の「エネルギー白書2010」にいう1キロワット時あたり5~6円の発電コストでは済まないのではないかと。さらに前にも書いたように、そもそも原発は作業員の人件費を削りに削っているから可能になっている低価格ではないのかという疑問もあります。

 原発作業員については英紙『ガーディアン』のジャスティン・マッカリー記者が13日、「フクシマ片付け、日本中から『原発ジプシー』を募集」という記事を発表。「原発ジプシー」とは、かつてフリーライターの堀江邦夫さんが発表したルポルタージュの題名です。

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