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こだわり蕎麦屋めぐり
【第5回】 2011年9月30日
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鎌 富志治 [夢ハコンサルティング代表]

神楽坂「志ま平」――江戸職人の粋が溢れる店内で楽しむ、巽蕎麦とお任せの蕎麦懐石

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連載5回目は、神楽坂「志ま平」。ここは、江戸蕎麦ではなく“巽蕎麦”を看板にする。「遊びもよくして、仕事もしなくちゃいけない。それが江戸職人なんだな」――。江戸の粋を体現する亭主が営む蕎麦屋には江戸職人の気概が溢れている。
返しと出汁で仕事をした絶品の蕎麦懐石は、懐石料理を食べ慣れた食通さえうならせる。江戸の情緒を味わいながら、心ゆくまで蕎麦屋酒を楽しみたい。

神楽坂に“巽蕎麦”の看板を上げる
そこには亭主の心意気が込められている

 神楽坂「志ま平」の看板には“巽蕎麦”と書かれている。そこには江戸蕎麦よりも強い心意気が込められているのだが、その巽の文字にはどんな意味があるのか、今回はまずその話から始めたい。

 江戸城から見て、巽(辰巳)の方角に深川がある。辰巳とは方位で東南のことである。深川は材木を扱う商業港として栄えて、そこには必然的に花街ができた。取引での会食や宴会に艶っぽい女たちが集まり、割烹料理屋、茶屋、蕎麦屋の飲食店が集まり、春を売る岡場所も設置された。曲亭馬琴はここで生まれ、平賀源内、松尾芭蕉、伊能忠敬なども深川に住んだ。

「志ま平」の前菜。酒を舐めるようにやって、肴を楽しむ。蕎麦がきたら、さっとと手繰って、ぽんと帰るのが江戸っ子の粋。巽(たつみ)蕎麦とは勢いか。

 当時、深川にいる芸者を別名で辰巳芸者と呼んで江戸っ子は囃し立てた。土地柄、いなせな男衆を相手にしていたから、商家の旦那相手の日本橋の芸妓とは一線を画していた。

 辰巳芸者は色は売らずに芸を売るといわれ、着物は鼠色系統で地味な男羽織を着た。源氏名も吉次とか音奴とか、男名が通例で、職人のようなべらんめい口調で客の相手をした。

 “地味の美学”、これも粋のひとつだった。これが江戸っ子の心持に受けて、辰巳芸者は人気を上げた。

 辰巳芸者といっぱしに浮名を流したら一人前よ、と職人たちは身銭を切ってきれいな遊びを覚えにきたものだ。彼女たちの芸と話術は江戸っ子の意気と気風そのもので、“巽”はその象徴であった。 

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鎌 富志治 [夢ハコンサルティング代表]

大手広告代理店で営業局長やプロモーション局長を歴任後、東京・神田須田町で手打ち蕎麦屋「夢八」を開店する(現在は閉店)。現在は企業経営コンサルタント、蕎麦コンサルタントとして活躍中。著書に『こだわり蕎麦屋の始め方』(ダイヤモンド社)がある。
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