東日本大震災は地方の医療過疎の深刻さを浮き彫りにした。また、津波で多くの医療情報が流されたことは、情報保存のあり方を見直すきっかけとなった。前回の被災地における訪問診療の現状レポートに引き続き、今回は震災から医療情報を守るための最新の取り組みを紹介する。

診断データが津波で消失
バックアップの意識強まる

 今回の東日本震災では、いくつもの病院が津波に流され、膨大な量の医療情報までもが消失した。紙のカルテはいうまでもなく、CT(コンピュータ断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)による患者の画像データも、サーバごと水没して使いものにならなくなるケースが目立った。

 甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島は高齢化がとくに深刻で、慢性疾患を抱えるお年寄りが多い地域であるが、それまでの診断結果や投薬履歴などの情報が津波で失われたことによって、患者にどの薬を与えてよいのかがわからず、診療に支障を来すことが多かったようだ。

「震災をきっかけに、多くの病院で、大事な医療情報を万一に備えて安全な場所にバックアップしておかなければならないという意識が強まっているようです」と語るのは、遠隔画像診断サービスを提供する京都プロメド代表取締役社長の河上聡氏。

 同社は関西や四国、東京などの病院が撮影したCTやMRIの画像を通信回線経由で受け取り、常駐する放射線専門科医が読影して、病院に診断結果を送り返すサービスを提供している。

京都プロメド 河上 聡 代表取締役社長
2007年、京都大学との提携で同社を設立。病院ごとのニーズに沿ってきめ細かな遠隔画像診断サービスを提供している

 「一般の医師では高度化する画像診断に苦労するケースも多く、とくに医療過疎が進む地方では放射線専門科医が不足しています。そうした問題をITとネットワークの力で解決しようと取り組んでいます」(河上氏)

 同社のように医療情報をネットワークで転送する取り組みは、すでにかなり普及し始めている。

 しかし、一般企業が財務や営業などの情報を外部のデータセンターに保管するように、病院が医療情報を外部に預けるサービスは少なかった。「患者さんの情報はなるべく院内にとどめておきたいという病院側の意識が強かったのも普及を妨げてきた原因かもしれません」(河上氏)