どこのオフィスでも、昼食時間を終えると女性たちが歯ブラシ片手に洗面所に駆け込む光景を目にする。その点、概して男性たちはオーラルケアに無頓着な人が多いようだ。しかし、じつは「男性」、さらには「ビジネスマン」ほど、口元のケアには気をつけなければならないという。アンテナの感度が高いビジネスマンはこうしたリスクをいち早く察知し、そつなく「マウスマネジメント」をこなしているという。
なぜ、「男性」「ビジネスマン」こそ「マウスマネジメント」が必要なのか、その理由と対策を、宝田恭子歯科医師に聞いた。
仕事上のミスは指摘してもらえても
口臭など身だしなみの不快感は教えてもらえない
宝田恭子歯科医師1956年東京都生まれ。東京歯科大卒業後、同大学保存科勤務を経て宝田歯科医院の3代目院長に。日本アンチエイジング歯科学会常任理事、日本歯科人間ドック学会理事、日本歯科東洋医学会理事。日本歯周病学会、国際口臭学会、メディカルアロマセラピー研究会等に所属。
仕事では、さまざまな管理能力が求められる。プロジェクトの進行管理や、組織の管理運営、クライアントとの関係性といったスキルだ。ただそれらに比べると、ややおざなりにされがちなのが自己の管理である。なかでも男性がおろそかにしがちなのが、健康や容姿に関することだ。ビジネスに直結しないと考えられているからであろうが、無論、そんなことはない。
会議や商談など、ビジネスにおいてコミュニケーションは不可欠なものである。だらしない格好であれば、信用を失うこともあるし、口臭で相手に不快な思いをさせてしまっては、ビジネスにも支障を来しうる。それは、フィリップスが行ったアンケート結果からもよくわかる。口臭で不快に感じたことがある人は、との問いに対するワースト3はすべてビジネス上で付き合う人物だ。さらに問題が深刻なのは、こういった不快感に関して、ほとんどの人は直接口にしない、という点である(下図参照)。ビジネス上の問題点は的確にアドバイスしてくれる上司や同僚も、「口元にノリが…」とか「口臭がきつくて…」とは、なかなか言ってくれない。とりわけパッと見てわからない口臭は、自分自身では気づきにくい。しかし密かに相手をウンザリさせているのかもしれないのだ。
そういったことを考えると、ビジネスマンも口臭や歯周病の予防のためにこまめに歯のケアに励み、常に口の中を清潔に保っておくように心がけることだ。実際、優秀なビジネスマンほどさりげなく気を配っているのが「マウスマネジメント」だろう。
「特に男性は歯のケアをおざなりにしがちですが、むしろ女性以上に気を配るべきだといえるでしょう。通常、女性に対してはまずヘアスタイルや目元などに視線が向けられるのが自然ですが、男性の場合は口元に注意が向けられがちです。たとえ歯並びが悪くても、白くて清潔な歯を保っていれば、少なくともマイナスの印象は与えないはずです」
こう指摘するのは、オーラルケアの第一人者である宝田恭子歯科医師だ。逆からいえば、たとえ歯並びが整っていても、食べ物のカスや歯石だらけで歯周病の温床となっている不潔な歯を口元から覗かせていれば、それだけで相手は幻滅しかねない。
無論、このような無頓着は口臭の原因ともなってくる。そのうえ、こうした日々の「マウスマネジメント」の怠りは、目先のビジネスに大なり小なりの悪影響を及ぼすだけでなく、数十年後に大きなツケとなって返ってくる可能性が高い。
「これまで私が担当した患者さんについて振り返ったとき、若い頃から通われている3人の男性が印象的でした。同年齢の男性3人が同時期に通い始められたんですが、通い始めた当初から意識してケアを行ってきた2人は定年退職を迎える頃になっても、自分自身の歯が28本、きちんと残っています。しかし、おろそかにしていた人は、なんと総入れ歯になってしまったのです」