ネットオークションが善人を作る?開放系の空間ではポジティブ評価が大事

作家であり、金融評論家、社会評論家と多彩な顔を持つ橘玲氏が自身の集大成ともいえる書籍『幸福の「資本」論』を発刊。よく語られるものの、実は非常にあいまいな概念だった「幸福な人生」について、“3つの資本”をキーとして定義づけ、「今の日本でいかに幸福に生きていくか?」を追求していく連載。今回は「閉鎖空間に属する生き方と幸福の関係」について考える。

ネットオークションが巨大ビジネスに成長した理由

 ネットオークションがはじめて登場したとき、多くの専門家はこんなビジネスが成立するはずがないと鼻で笑いました。参加者は出品者のことをなにも知らず、ニセモノを出品して好きなように暴利をむさぼることができるはずだからです。

 しかし専門家の予想(というか冷笑)に反して、いまやイーベーやヤフー・オークションは巨大ビジネスに成長しました。その秘密は「評判」にあります。ネットオークションでは、落札者が出品者を評価できるようになっているのです。

 あなたはいまネットオークションで詐欺を企んでいるとしましょう。でもあなたはまだなんの評判も持っていませんから、このままでは高額の出品に入札してくれるお人好しは現われそうもありません。詐欺で儲けるには、なんらかの方法で高い評判を獲得しなくてはならないのです。

 もっとも簡単な方法は、少額の出品を繰り返し、まっとうに商売をして地道に評判を獲得していくことでしょう。こうして高い評価を得ると、高額な商品を出品できるようになるばかりか、同じ商品でも高い値段で落札されるようになります。オークションの参加者は、良心的な業者と取引できるならすこしぐらい余分に払ってもいいと思っているのです。

 こうしていよいよ、詐欺を働くには十分な評判が手に入りました。いまなら液晶テレビなどの高額商品を大量に出品し、入金されたとたんに全額現金で引き出して逃げることができます。でもその頃には、オークション業者としてそれなりの利益を出すことができるようになっているはずです。

 こうしてあなたは、ふたつの選択肢の間で悩むことになります。