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地図画面をクリックして区画を選んで、家や大規模太陽光発電所(メガソーラー)を配置すれば、電力の消費量や発電量を入力した途端に、その街が使う電力量がわかり、おまけに発電所の投資回収に必要な年数までもはじき出せる。
これは、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)が開発した「エプリズム」という電力予測システムだ。発電所や蓄電池、電気自動車や小型風車などに対応し、自家発電を置いた場合の都市設計がシミュレーションできる。
とりわけ東日本大震災の被災地の復興にひと役買っている。
被災した岩手県大船渡市と陸前高田市、住田町の2市1町と東日本未来都市研究会が目指す「環境未来都市」という新たな街づくりの設計に導入されているのだ。
このなかでは、環境に配慮した自家発電を取り入れ、地域で電力を賄っていくという“地産地消”の電力システムを作り上げることが掲げられた。内閣府も認定した国が支えるプロジェクトだ。
そこに予測システムが導入されたのには理由がある。なんといっても、シミュレーションの精度が高いことだ。
じつはCTCは気象解析で国内屈指の実力を持つ企業。1990年から、そのスーパーコンピュータの処理能力を生かし、風力発電向けの風況解析を始めていた。国の気象予報業務の許可を受けており、かねて電力予報や発電量のコンサルティングをしていた。
そのため、通常は約1キロメートル四方でしか予測できないものを約10メートル四方まで可能にしている。つまり、これまでの1万分の1に細分化できる精度を誇っているのだ。
実際、新エネルギー・インフラ事業推進部の福田寿部長は、「風力発電やメガソーラーの年間発電量は、建設前の予測と誤差1~2%に収まる」と言うから驚きだ。
さらに、物を効率よく動かす「最適化」のシミュレーション技術も生かされている。
これは、羽田空港や成田空港で航空機の離発着をどう組み合わせれば効率的かといったもので、物流の現場で使われてきた。
20年間の気象解析とこうした最適化の技術を組み合わせることで、電力を効率よく使う電力予測システムを作り上げたというわけだ。クラウドコンピューティングでの運用のため、解析の精度は日々上がっていく。
じつはこのシステム、震災前は構想にすぎなかった。しかし、震災後に太陽光や風力発電で二酸化炭素排出を抑えたスマートシティの需要が高まり、開発を開始。東京大学大学院の宮田秀明教授のアイディアを取り入れ、一気に構築した。
これはすでに長崎のハウステンボスでも使われている。復興だけでなく、節電などエネルギーの有効利用につなげるうえで注目されている。将来は各家庭まで広がっていくことが期待されるのだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)