本連載では、話題の新刊『最先端科学×マインドフルネスで実現する 最強のメンタル』の内容から、エビデンスに基づいた最新科学の知見をもとに、現代人が抱える2大メンタル問題「ストレス」と「プレッシャー」を克服し、常に安定して高いパフォーマンスを発揮するための方法をお伝えしていく。

「脳のタイプ」によってメンタルの鍛え方が変わる

「変えられる能力」と「変えられない能力」

 メンタルは大きく、「変えられる能力」と「変えられない能力」の2つの能力で構成されています。

 「変えられる能力」とは、気分や情動など、自己コントロール可能な要素のことで、「変えられない能力」とは、性格や気質など持って生まれた遺伝的要素のことです。

 気質とは、個人の性格の基礎になっている遺伝的・生物学的な感情の性質、行動の特性のことで、様々な遺伝子が複雑に絡み合い、その人の気質を構成しています。

 その結果として、脳波上では、低覚醒タイプや高覚醒タイプなどの違いとして現れていると考えられています。

 気質の歴史は長く、古くは古代ギリシャ時代にまでさかのぼります。

 当時は、まだ病気は原始的な迷信や呪術によって論じられていましたが、医師であったヒポクラテスが、はじめて体質や環境による影響だということを明言し、その後、4つの体液理論として体系づけました。

 インドでは「ドーシャ」と呼ばれる3つの体液理論をベースとしたアーユルヴェーダが、中国では寒熱、虚実などの「証」と呼ばれる体質分類がなされ、近年では、エルンスト・クレッチマーや、ロバート・クロニンジャーらによる行動遺伝学が進展し、様々なパーソナリティが発見されました。

 さらに、ヒトゲノム解析により、こうした気質の違いは、遺伝子の違いによってなり立っていることが明らかとなりました。そのことで、将来どういった病気にかかりやすいのか、またアスリートであれば、どういった競技に向いているかなどがある程度予見できるようになりました。

 ただ実際は、その役割や機能が未解明なジャンクDNAと呼ばれるものも多く、「これらは進化の過程により必要性がなくなったことで機能しなくなったのか?」もしくは、「まだ発見されていないなにか特別な役割を担っているのではないか?」という議論が今なお続けられています。

 つまり、遺伝子に関してはまだまだ未解明なことの方が多く、一概に遺伝情報だけでその後の人生が予想できるものではないということです。

 あくまでも1つの指針といえます。

 先入観にとらわれ過ぎるあまり、夢や目標が限定的になってしまったり、はじめからあきらめてしまっては、つかめるチャンスもつかめなくなってしまい、非常にもったいないことだともいえます。

 さらに、遺伝子はその機能のオン・オフを繰り返していますから、なんらかの刺激や環境の変化、トレーニングによって、眠っていた遺伝子が機能し出すことも十分考えられます。

 言い方をかえれば、眠れる力、潜在能力の開花といったところでしょうか?

 実際、リラクセーションの研究で、定期的にヨガや瞑想などのリラクセーションを行っている鍛錬者のグループと、リラクセーション未経験者である非鍛錬者のグループとの間には、抗ストレス関連遺伝子の活性パターンに有意な差があり、その非鍛錬者でもリラクセーションを一定期間行えば、遺伝子の活性パターンが変化することが確認されました。

 さらに、そのリラクセーション初心者と15年以上の経験を持つ鍛錬者との間にも異なる活性パターンが確認されました。

 これは熟練度に関わらず、リラクセーションという刺激が抗ストレス関連遺伝子の活性パターンを変え、さらに鍛錬者のように長期間行うことでしか活性化しない遺伝子もあるということを示唆しています。

 短期的なトレーニングでオンになる遺伝子と、長期的なトレーニングでオンになる遺伝子の2つのタイプが確認されたということです。

 こうした遺伝子の話と直接結びつけることはできませんが、私の周りを見ましても、「えっ、あの人が!?」というように、昔のイメージとはかけ離れるほどの飛躍をし、良い意味で化けた人たちがいます。

 元々、才能の種があり、それが開花したのだと思いますが、本当に人の才能はいつどこで開花するかわかりませんね。

 これまでの連載でご紹介した低覚醒タイプや高覚醒タイプは、「変えられない能力」に当てはまります。ただ、理解していただきたいのは、これらのタイプに優劣はないということです。どちらのタイプにも一長一短あります。

 例えば、短距離型の遺伝子を持つアスリート、長距離型の遺伝子を持つアスリート、二人のアスリートに優劣をつけるとしたら、どちらが上で、どちらが下でしょうか?

 私は、単純に優劣はつけられないと思います。

 要は、それぞれ適材適所があるということです。

 つまり、「変えられない能力」は、無理に変えようとせず、その気質を活かした生き方が求められるのです。気質を無理に変えようとしてもやはり限界があり、他に得意なことがあるにもかかわらず、自分の価値観を下げてしまい、どんどん自信を失っていってしまいます。

 本来、短距離型の遺伝子を持っているのに、長距離型のトレーニングを積んでいては、思うように結果が出せず、長距離型の遺伝子を持っている人には及びませんよね?

 もちろん逆もしかりです。

 アーユルヴェーダしかり、漢方しかり、これらの伝統医学を見ても、それぞれの体質に優劣はつけていません。

 それぞれの体質に合った治療法や処方を勧めているだけで、別の体質になることを目指してはいないのです。重視しているのは、自分の体質をよく理解し、自分の体質に合ったやり方で治療することです。

 西洋医学のように、症状が同じだからといって同じ薬は出さないのです。そこには、体質に応じた個別のアプローチ、治療という考え方があるのです。

 これは、メンタルに対しても同様のことが当てはまります。

 短気な人、のんびりな人、せっかちな人、落ち着いている人など様々なタイプのメンタルの持ち主がいます。

 さらに、緊急事態になれば、普段は落ち着いているのにパニックになったり、あまり変わらない人もいれば、冷静な人もいます。

 そう考えると、メンタルに関しても、一律的なアプローチでトレーニングを行っても、きちんと効果が出る人と、出ない人が出てくることが理解できるかと思います。

 自分の脳のタイプを知ることができる「ストレスプロファイル」などを活用して、ぜひ、自分の脳タイプに合ったメンタル強化法で高いパフォーマンスを目指していただきたいと思います。