「鈍感な理想主義者」は、必ず現実に敗北する

 入社2年目のときに、タイ・ブリヂストンで在庫管理で苦しんだ私もそうでした(連載第2回参照)。  あのとき、工場立ち上げの最中、メンバーは懸命に汗を流していましたが、それが負のスパイラルを生んでいました。忙しいから、在庫管理がズサンになる。その結果、発送ミスが発生して返品があるなど現場はさらに混乱。その対応に追われて、さらに在庫管理がズサンになる……。その状況から脱するために、私は、「在庫管理を徹底すれば、みんなが楽になるんだ」と理想を説いて回りました。

 そして、自ら汗をかいて、少しずつ改善を加えることによって、実際に仕事が楽になると、理想に共感してくれるメンバーが増加。私がとやかく言うまでもなく、自発的に改善をするチームへとなっていったのです。

 あれが、私にとって、理想のもつ力を体感したはじめての経験となり、それ以降、ブリヂストンのCEOを勤めあげるまで、一貫して理想をすべての出発点にする習慣が身に付いたのです。

 ただし、臆病な理想主義者でなければなりません。
 すでに述べたとおり、現実を見据えない理想主義者が口にするのは“寝言”のみ。そのような理想主義者は必ず現実を前に敗北を喫するからです。特に、職位が上がるにつれ、掲げる理想は大きくなっていきます。このときに、現物・現場・現実の「3現」からかい離すれば、現場の離反は避けられません(連載第13回参照)
 だから、理想を掲げつつも、臆病な目で現実とのかい離を見定め、適切な目標を設定することが欠かせません。これが、機能するリーダーシップを生み出す「肝」なのです。