「優れたリーダーはみな小心者である」。この言葉を目にして、「そんなわけがないだろう」と思う人も多いだろう。しかし、この言葉を、世界No.1シェアを誇る、日本を代表するグローバル企業である(株)ブリヂストンのCEOとして、14万人を率いた人物が口にしたとすればどうだろう?ブリヂストン元CEOとして大きな実績を残した荒川詔四氏が執筆した『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)が好評だ。本連載では、本書から抜粋しながら、世界を舞台に活躍した荒川氏の超実践的「リーダー論」を紹介する。

「リーダーシップの本質」は世界不変である

 リーダーシップとは、メンバーを無理やり動かすことではありません。
 そんなことをしても反発を食らうだけ。それよりも、魅力的なゴール—すなわち「理想=あるべき姿」—を示して、メンバーの共感を勝ち得ることが重要。そして、メンバー一人ひとりのオーナーシップを尊重することで、チームが自発的に動き出す状況をつくる。こうして結果を生み出していくことこそがリーダーシップ。それを、私は、入社2年目の在庫管理にまつわるトラブルに遭遇したときに学びました(連載第2回参照)

 そして、その後、私は、ひとり海外事務所長、部下数人の課長、部下数十人の部長を経て、タイ現地法人CEO時代は数千人の社員とともに働きましたが、入社2年目で学んだリーダーシップの本質は、地域、人種、組織規模にかかわらず、あらゆる場所で通用する「真理」であるとの確信をもつにいたりました。

 そこで、ブリヂストン・ヨーロッパのCEOとして、十数ヵ国に点在する子会社で働く1万人を超える社員たちをまとめる立場になったとき、このリーダーシップのあり方を「仕組み化」することにしました。同社ですでに導入されていた中期経営計画を、私独自の仕組みに変えたのです。

 中期経営計画と名付けられた仕組みは、数多くの企業で採用されていますが、私が見るところ、大きく2つの形に収れんされます。ひとつは、本社中枢が決めた計画を現場に割り振るもの。そして、もうひとつが、現場が立てた目標を積み上げたものです。しかし、この両者ともに「計画」としては機能しないと私は考えています。

 前者はトップから現場への“押しつけ”にほかなりませんから、現場のオーナーシップは皆無。“やらされ感”だけが募るため、現場のモチベーションが上がらない。しかも、現場の実情を踏まえない「計画」になりがちですから、現場からは「OKY」(「お前が来てやれ」の略語。連載第13回参照)と思われるだけ。当然、結果もついてきません。

 かといって、現場からの積み上げだけでも機能しません。現場の厳しさを知っているからこそ、現場は保守的になりがちだからです。その「保守的な計画=現状の延長線上にある計画」をいくら積み上げても、高い目標設定にはならない。しかも、現場は「部分最適」の発想をしますから、「全体最適」も損なわれる。それでは、組織全体として最高のパフォーマンスを実現することは不可能と言わざるをえないのです。