いつまでチキンレースが続くのか──。政府の原子力損害賠償支援機構と東京電力による「総合特別事業計画」の策定作業が難航している。これまで報道された東電の資金計画や収支改善策もまだ一つの過程にすぎない。内実は政府と東電、銀行の三者による果てしない足の引っ張り合いだ。
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今年1月から2月上旬にかけて、三井住友銀行を筆頭とする東京電力の取引先金融機関が、東京・虎ノ門にある原子力損害賠償支援機構に次々と呼び出された。
「電気料金の値上げはまだ仮置きの数字にすぎない」
賠償機構の担当者は総合特別事業計画の策定状況を説明。そして、必ずこう釘を刺したという。
「情報保持に努めてくれ」
じつは、賠償機構は昨年12月から、これらの金融機関に対し、東電の資金計画概要について説明を始めていた。総合計画の前提条件の一つである「金融機関による1兆円の追加融資」を取り付けるためだ。しかし、「東電の料金値上げなどを既成事実化したい銀行側が報道各社にあれこれ吹き回った」(経済産業省幹部)。こう見立てた枝野幸男経済産業相ら首脳部が激怒し、実務担当者らが金融機関との調整に乗り出したのだ。
枝野経産相は総合計画の策定作業の中断を命じ、約10日間ストップしてしまうほど。一部報道で作業の中断は、東電による電気料金の値上げが理由とあったが、銀行との対立が最大の要因だった。
もちろん、東電側との交渉がスムーズかというと、こちらも遅々として進まない。
1月24日、東電の幹部が同じく賠償機構に呼び出されていた。「われわれに知らせないで、このような値上げは許されない」。ちょうど1週間前に発表した企業向け電気料金の17%値上げについて、事前説明がなかったことを賠償機構の委員らが問いただしたのだ。
東電は12月にも、西澤俊夫社長が「値上げは権利」と発言して、枝野経産相が不快感を示すなど政府側の不信が高まっていた。確かに、企業向けなどの「自由化部門」は政府の認可なしで値上げは可能だが、「資金計画の骨子となる値上げを当日の朝に知らされた」(経産省関係者)という異常事態に怒りが爆発したのだ。