本連載では、話題の新刊『最先端科学×マインドフルネスで実現する 最強のメンタル』の内容から、エビデンスに基づいた最新科学の知見をもとに、現代人が抱える2大メンタル問題「ストレス」と「プレッシャー」を克服し、常に安定して高いパフォーマンスを発揮するための方法をお伝えしていく。

宮本武蔵は「最強のメンタル」の持ち主だった

 思えば、精神に関して最も影響を受けた本は、20歳の頃に読んだ宮本武蔵の『五輪書』でした。

 文字にエネルギーが宿っているかのごとく、それは圧倒的な存在感を放っていました。おそらく、今後もそれは変わらないでしょう。

 一体、他の書と『五輪書』の違いは、なんなのだろうか?

 この文字に宿る力強さは一体どこから来るのか?

 当時は、まだメンタルに関して深く研究する前でした。そんな、なにも知らない頭が空っぽなところに『五輪書』が「ガツン!」と突如私の頭の中に入ってきたのでした。そこで感じたのが、文字から放たれるエネルギーというなんともいえない抽象的な感覚だったのです。

 今になって振り返ると、それは宮本武蔵という兵法家でもあり、数々の修羅場をくぐり抜けてきた圧倒的な実践者が書いた本だったからです。武蔵自身、『五輪書』を書くにあたって、仏教や儒教の言葉、軍記、軍学の故事は用いないということを冒頭で書いています。

 自らが体験してきたことを自らの言葉で語っているところに、私は力強さを感じたのだと思います。

 戦国の世が終わりを告げ、江戸時代には、実際に刀を抜く侍の数もかなり減ったと聞きます。そして、幕藩体制が確立されるようになり、戦自体が激減していきました。

 そんな時代の流れに逆行するかのように武蔵は、道場稽古だけに飽き足らず、真剣や木刀を使った決闘を繰り返していきます。

 結局のところ、道場での稽古では得られない実戦でしか養えない感覚、能力開花があるのだと身にしみて感じていたのだと思います。

 こうした数多くの実戦経験から、『五輪書』の中では、実戦における精神面の重要性についても触れられています。高いパフォーマンスの発揮におけるリラックスと集中のバランス、中覚醒状態の重要性について、武蔵も明記しているのです。

「兵法の道におゐて、心の持やうは、常の心に替る事なかれ。常にも兵法の時にも、少しもかはらずして、心を広く、直にして、きつくひつぱらず、少しもたるまず、心のかたよらぬやうに、心をまん中におきて、心を静にゆるがせて、其ゆるぎのせつなもゆるぎやまぬやうに、能々吟味すべし。」

( 兵法の道において、心の持ち方は、日常の心と変わらないようにせよ。日常でも、兵法の時でも、少しも変わらず、心を広く素直にして、きつく緊張することなく、少しもたるむことなく、心が偏らないように、心を真ん中に置いて、心を静かに揺るがせて、揺るぎの刹那も揺るぎやまないように、よくよく吟味すべきである。)

宮本武蔵著、魚住孝至編『五輪書:ビギナーズ日本の思想』(角川ソフィア文庫)より

 人間の心の本質、パフォーマンスの発揮に良い状態は、昔も今も変わらないということですね。