本連載では、話題の新刊『最先端科学×マインドフルネスで実現する 最強のメンタル』の内容から、エビデンスに基づいた最新科学の知見をもとに、現代人が抱える2大メンタル問題「ストレス」と「プレッシャー」を克服し、常に安定して高いパフォーマンスを発揮するための方法をお伝えしていく。

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安静空間でのマインドフルネスだけでは役に立たない

 これまでの連載でお伝えしましたように、「ここ一番」は、最高にストレスフルな状況です。

 当然それは、ヨガスタジオや禅寺、自宅などのホッとした癒やしの空間ではありません。

 基礎トレーニングとして、こうした安静空間でのトレーニングは必要です。しかし、そこで培った効果を実践で生かすとなると、そのままではうまくいきません。

 空手で例えるなら、(1)一人での型稽古から始まり、(2)道場内での組手(3)試合へと、そこに至るまでどんどんストレスレベルが上がっているのです。

 安静空間でのマインドフルネストレーニングは、(1)に該当します。

 これでは、実際のコンペはおろか社内などのプレゼンさえもうまくいきません。つまり、基礎トレーニングとしてマインドフルネスなどのメンタルトレーニングをしたならば、それを実践に向けてアップデートする必要があるのです。

 アスリートが筋力トレーニングで筋肉量を増やしたならば、実際にその身体を試合で使いこなせるように仕上げていきます。

 この作業を行わないと、それはいわば普段は軽自動車に乗っていて、突然スポーツタイプの車に乗り換えるようなものです。

 馬力や排気量が大きく異なりますから、なかなか同じように乗り回せないはずです。

 つまり、肉体改造の世界では当たり前に行われている適応トレーニングが、メンタルの分野ではほとんど行われていないのです。

 冷静に考えてみれば、非常におかしな話です。

 本番では、普段できることができなくなってしまいます。その大きな原因は、ストレスやプレッシャーなのです。

 では、どうすれば良いのでしょうか?

 最も効果的なのは「毒を以て毒を制す!」です。

 人間にはホメオスタシス(恒常性)と呼ばれる、環境に適応しようとする自動制御機能が備わっています。つまり、ストレスがかかれば、そのストレスに負けまいと生体は適応しようとします。

 これは、筋力トレーニングを想像すれば、容易に理解できると思います。バーベルの重量を50kg、55kg、60kgと上げていけば、筋肉がそれに適応するように肥大していきます。

 ただし、50kgからいきなり100kgは持ち上げられません。

 それはメンタルも同じで、突発的にたくさんのストレスが襲いかかってくれば、メンタルはその環境に適応できず、へこんだ心が復元できなくなってしまいます。ですので、今の自分のレベルに合った適度なストレス負荷が望まれるのです。