遺伝的リスクが高くても 運動は脳・心疾患リスクを下げる

 先天的な心疾患だけでなく、心筋梗塞や脳卒中にも「家族歴」がある。

 親や兄弟姉妹に病歴がある場合、本人が脳・心疾患を起こす確率は家族歴がない人の2~4倍に上昇。近親者が45歳以下の若さで脳・心疾患を発症していると、本人が55歳までに心疾患を発症する確率は6.7~11.4倍にもなる。家族歴がある人は、若いうちから生活習慣や食習慣に注意する必要があるわけだ。

 最近は運動が期待以上に脳・心疾患を予防する可能性が明らかになっている。

 米スタンフォード大学の研究グループは、英国在住の50万人超の生物学的な試料──血液、細胞およびDNAなどを集積した「英国バイオバンク」のデータを使い、遺伝的リスクと握力、身体活動量、心肺フィットネス(心肺持久力)との関連を解析。

 今回は登録時点で心疾患の既往がなかった40~69歳の男女(平均年齢56.5歳、女性54%)、48万0914人を抽出している。追跡期間は平均6.1年だった。

 追跡期間中、2万0914人が心筋梗塞や心房細動(心臓の上半分を占める心房のけいれんで、心原性脳塞栓症の原因)、心不全、脳出血やくも膜下出血などを発症している。

 遺伝的リスクを「高い」「普通」「低い」に3分割し比較した結果、全体として握力、身体活動量、そして心肺持久力が上がるごとに心筋梗塞などの冠動脈疾患と心房細動の発症リスクが低下した。

 たとえば、遺伝的リスクが高いグループ内でも、心肺持久力が高い人は、低い人より冠動脈疾患リスクが49%、心房細動リスクが60%低下した。心肺持久力をしっかり付けることで、遺伝的なリスクを帳消しにできる可能性が示唆されたのだ。

 研究者は「遺伝的背景があろうとも、運動は脳・心疾患リスクを下げる」としている。

 心肺持久力を鍛えるには、高強度の運動と休息を交互にとるインターバルトレーニングがお勧め。有酸素運動が苦手な人は、全力のスクワットなど、レジスタンス運動と組み合わせてもいい。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)