『週刊ダイヤモンド』11月13日号の第1特集は『三井住友 名門「財閥」の野望』です。三井と住友。日本を代表する旧財閥系の銀行が合併し、今年20年を迎えました。この間、損保や建設など一定の業界で融合が進みましたが、三井と住友は歴史も社風も全く異なります。三井住友の知られざる20年秘史を明らかにし、二大財閥の実力を解き明かします。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)

五日会、泉会、卯月会、人泉会…
住友社員も知らないグループ組織の全貌

住友の“聖地”と呼ばれる別子銅山(愛媛県新居浜市)から、住友の発展の歴史が始まった Photo by Takeshi Shigeishi

 三井と住友にはそれぞれ、主要企業の社長会が存在する。三井の二木会、住友の白水会がそれだ。三井の名前を冠した会社以外でも、東芝やトヨタ自動車など大企業が加盟する二木会は緩やかな連携だが、白水会は結束力が強いのが特徴だ。

「結束の住友」と呼ばれるゆえんだが、住友の結束力の源泉は、社長会だけでない。各階層でグループ企業をつなぐ組織が存在していることにある。

 例えば白水会の5日前に開催される五日会。白水会メンバーの副社長や企画総務担当役員らが出席する親睦会だ。他にも人事部長の人泉会、広報部長の三木会などがある(次ページ表参照)。

別子銅山で住友イズム注入
強固な結束力故の弱点も…

 中でも最も重要な中枢組織が、泉会だ。白水会メンバー企業の総務部長で構成し、毎月第2金曜日に開催される。白水会と同様に代理出席を認めず、幹事会社は1回ごとの持ち回りだ。

 泉会はグループ広報委員会の予算権限を持ち、総務部長は泉会の前に開催される商標委員会の委員も兼ねる。白水会で話し合われる議題の事前調整やグループ行事の決定、共同施設の運営などを協議する実務者会合だ。

 これら本社中枢の会合だけでなく、地方でも支店長クラスの親睦会などがある。こうした場では「『銀行さん』『商事さん』など住友の名を付けなくて呼び合える」(住友グループの地方支店経験者)といい、住友に親近感を持つ触媒となっているようだ。

 一般社員に向けても事業精神の教育に余念がない。研修の一環として取り入れているのが別子銅山の登山体験だ。住友金属鉱山では、入社時と幹部、役員昇格時の最低3回、登山を体験する。往年の銅山事業を社員が実体験として感じられる場を持っていることも住友の強みといえる。

 別子銅山の登山体験はグループ企業の多くで導入され、近年は住友不動産の社内に常設事務局も設置した。こうしたことからも、住友は組織的にグループ内の結束を強化しているといえそうだ。

 一方、結束力の強さには、同時にデメリットもある。白水会の入会基準が厳し過ぎて、グループ拡大が望みにくいことだ。

 前述のように白水会メンバーは発足当時12社で、現在は19社だ。三菱金曜会の27社、三井二木会の29社と比べていかにも少ない。

 3グループとも戦後の発足時から加盟会社が増えたが、白水会の場合、退会した企業も少なくない。その代表例が旧住友金属工業だろう。住友の「御三家」といわれた直系企業だったが、12年の新日本製鐵(現日本製鉄)との合併に伴い、白水会からの退出を余儀なくされた。

「純血」を維持しようと思えば、排他的とならざるを得ない。強固な結束力は、内向き思考に陥りかねない危険性もはらんでいるといえよう。

銀行・損保合併、知られざる20年秘史
合併しない商社、不動産など「5番勝負」の行方

『週刊ダイヤモンド』11月13日号の第1特集は『三井住友 名門「財閥」の野望』です。

 Part1では、三井と住友が合流した銀行と損保の合併20年秘史に迫ります。三井住友フィナンシャルグループは今年、取締役全員が旧住友銀行出身者となりました。知られざる権力闘争や融合に腐心したリーダーたちの姿を、関係者の証言から描きます。20年の歴史を踏まえ、三井住友銀行の次期頭取も占いました。

 Part2は、財界ポストを独占する「住友パワー」の秘密に迫ります。約400年前の事業精神を住友グループ各社はどのような形で受け継いでいるのか、白水会の「暗黙の統治」のメカニズムを解明します。愛媛県新居浜市の別子銅山事業から派生した住友金属鉱山、住友重機械工業、住友化学、住友林業の「新居浜4社」へのトップインタビューも行いました。

 Part3は、三井と住友が今も競合する商社、不動産、重工業、化学、電機の最新情勢をリポートします。三井物産と住友商事「合併説」の真実味、住友化学と三井化学「世紀の大統合」破談の真相、東芝とNECの「100年の因縁」などに迫りました。ぜひご一読ください。