現在、アメリカで最も成功している教育系の非営利団体(NPO)「ティーチ・フォー・アメリカ(TFA)」。2010年、全米で就職ランキング1位となり、グーグル、アップル、ディズニー、マイクロソフトよりも働きたい「理想の就職先」である。なぜ、優秀な人材がNPOを就職先として選ぶのか。
この日本版である「ティーチ・フォー・ジャパン(TFJ)」がついに本格的に始動する。この代表創設者が20代の松田悠介氏。彼にその組織のしくみを語ってもらった。(全3回)

世界各国で成果をあげている
ティーチ・フォー・アメリカ(TFA)のしくみ

 僕が代表をつとめるティーチ・フォー・ジャパン(TFJ)では、学校に先生を2年間送り込む「ネクスト・ティーチャー・プログラム」を今年4月から実施している。このプログラムは、日本の教育が抱えている、さまざまな問題を解決する起爆剤になる。僕がそう確信しているのは、元の組織であるティーチ・フォー・アメリカ(TFA)が同様のプログラムを実施して、すでに実績をあげているからだ。

 TFAは、約20年前に女子学生だったウェンディ・コップによって立ち上げられた教育系NPOだ。彼女たちが考えた事業モデルは全米各地で導入され、大きな成果をあげている。その活動は世界各国に広がり、いまや26ヵ国でTFAのしくみが実施されている。

 TFAのしくみを簡単に説明しよう。TFAはハーバードやスタンフォード、プリンストンといったトップクラスの大学を卒業する優秀な学生や既卒生を集めて選抜し、独自のトレーニングをする。その後、彼らに貧困地域や教育困難校と言われる学校で2年間教師をしてもらう。

 ただそれだけのしくみだが、貧困地域では劇的な効果がある。たとえば文字さえも読めない子が、やる気にあふれた教師のおかげで、高校や大学に進学できるようになった実例には事欠かない。ある中学校ではTFAから3、4人の先生が派遣されて、2割前後だった進級率が9割に改善したというデータもある。

 実際問題、まともに文章が読めなかったりするような子どもは、将来、自分の力だけで生きていくことが難しい。その結果、生活保護のような支援を受けるか、悪の道に手を染めるようになる。つまり貧しい家の子どもは良い教育を受けられず、人生の選択肢も限られてしまうのだ。それを根本から変えていけるのがこのTFAのしくみだ。日本でもアメリカでも貧困から抜け出すには、教育がモノを言うのは変わらない。

教師を経験するからこそ
社会で活躍できる人材に成長する

 このモデルの長期的な効果もはかり知れない。教師として経験を積んだ学生は、プログラム修了後には優秀な「人材」として認められる。つまり、アメリカではファースト・キャリアとして企業に認識されているのだ。

 過酷な状況で働き、問題解決能力、リーダーシップなどを身につけたTFAの卒業生は、投資銀行やコンサルティングファームといった人気企業のほか、政治や産業を問わず、さまざまな業界でリーダーとなって活躍する。彼らは自分たちが学校の現場で体験した問題を解決するために、それぞれの立場から発言し、行動する。それによって教育が抱える問題を社会全体で共通の問題として解決しようとしているのだ。