昨年4月に「日本国憲法改正草案」を発表した自民党が先の参院選で大勝し、憲法改正が現実味を帯びてきた。一時期、第96条を先行して改正しようという自民党の発案が物議を醸したこともあり、国民の間では憲法改正への注目がかつてなく盛り上がっている。ニュースなどを見て、今回の改正案を不安視する向きも多い。そうした状況を受け、足もとでは「護憲派」「改憲派」の識者たちがそれぞれ活発に意見を述べている。代表的な改憲派として知られる小林節・慶應義塾大学法学部教授は、今回の自民党の改正案に異を唱えている1人だ。小林教授は、なぜ自民党の改正案に異を唱えるのか。改正案にはどこに問題があるのか。自らを「護憲的改憲論者」と呼ぶ教授に、中立的な立場から、国民が知らない憲法改正の意義とリスクを語ってもらった。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 編集長・原英次郎、小尾拓也)
憲法改正を唱えて来たのは
復古主義の世襲議員たち
――昨年4月に「日本国憲法改正草案」を発表した自民党は、「憲法改正」を参院選の公約に正式に盛り込みました。先の参院選で自民党が大勝した今、改正が現実味を帯びています。以前から憲法改正論議には賛否両論がありますが、第二次安倍政権が発足してから、急に表面化してきた印象があります。憲法改正論が盛り上がってきた背景には、どんな事情があるのでしょうか。
慶應義塾大学法学部教授(法学研究科兼務)、学校法人日本体育大学理事、日体桜華高等学校学校長、弁護士。法学博士、名誉博士(モンゴル・オトゥゴンテンゲル大学)。1949年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程修了。ハーバード大学ロー・スクール客員研究員などを経て、89年慶大教授に就任。その後、北京大学招聘教授、ハーバード大学ケネディ・スクール・オヴ・ガヴァメント研究員などを兼務。『憲法守って国滅ぶ』『国家権力の反乱』『「憲法」改正と改悪』『白熱講義!日本国憲法改正』など著書多数。
そもそも自民党は、半世紀以上前、憲法改正を目的に保守合同で誕生した改憲政党です。しかし、その後は自民党自身が改憲論から逃げ回っていた。安倍政権以外の歴代首相は、政権発足時に「我が内閣では憲法改正を議題に載せない」と言い続けてきました。
その背景には、自党内で権力闘争のバランスをとる目的もあったかもしれないが、お蔭で国民は憲法議論からずっと遠ざかってきました。そんななかでも、自民党関係者のなかで、少人数による改憲の勉強会は地道に続けられて来ました。
――憲法改正を地道に唱えて来たのは、どういう人たちなのですか。
基本的に、復古主義の人たち。明治憲法下で生まれ育った岸信介元首相らが始めた「自主憲法期成議員同盟」「自主憲法制定国民会議」などの会員が母体になっています。一方で、自民党の政務調査会の中に憲法調査会もあり、建前上は憲法議論をそこでやることになっていました。
憲法論議はお金にも票にもならないから、必然的に憲法マニアが集まります。顔ぶれを見ると世襲議員が多い。選挙区の地盤がしっかりしているから、票集めに使う労力を憲法論議に割けるわけです。