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田岡俊次の戦略目からウロコ

経済制裁を一部解除。安倍首相が主導した
対北朝鮮「メガフォン外交」失敗の教訓

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第32回】 2014年7月10日
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日朝交渉が本格的に動き出した。安倍政権は拉致被害者調査に対する北朝鮮の対応を評価し、制裁の一部解除を表明した。だが、もとはと言えば制裁を主張して日朝平壌宣言の履行を妨げ、北朝鮮の核開発、ミサイル開発をもたらしたのは、安倍氏本人に他ならない。今回の日朝交渉で、感情論、強硬論は対外政策ではおおむねろくな結果を生まない、との教訓を日本人の多くが得れば、今後の安全保障に有益かもしれない。

「圧力」一本槍がもたらしたもの

 安倍首相は7月3日、拉致問題解決を目指して北朝鮮に対する制裁の一部解除を表明した。2002年9月7日に小泉首相が北朝鮮を訪問、金正日・国防委員長と会談「日朝平壌宣言」に調印した際、北朝鮮側が拉致事件を認め、同宣言第3項で「このような遺憾な問題が今後再び生じることがないよう適切な措置を取る」としたことで、日本の世論はかえって拉致事件がその日に発生したかのような興奮状態となった。以来12年間、日本政府は「対話と圧力」により拉致問題の解決を目指す、としてきたが、現実には04年5月の小泉氏の再訪朝による拉致被害者の子など5人の帰国以外には、ほとんど「対話」は進まず、「圧力」一本槍になっていた感がある。

 平壌宣言以来12年、制裁を次々に強化しても拉致問題は解決せず、北朝鮮は平壌宣言の4年後の06年10月9日に初の核実験を行い、09年5月25日、13年2月12日にも行った。ミサイル搭載用に重さ500kgから1t程度にする核の「小型化」は、さほどの技術を要しないから、すでにできている可能性が高い。弾道ミサイル開発・配備も進み、約100基とも200基とも推定される「ノドン」(推定射程1300km)の一部は車載式となって、位置がつかみにくく、先制攻撃でも破壊が困難になった。

 07年のパレードに登場した「ムスダン」(推定射程3500km)は液体燃料を入れたまま車輌に載せて待機できるため、トンネルから出て、ミサイルを立て発射するまで約10分と推定され、航空攻撃などで破壊するのはほぼ不可能になった。ただムスダンの発射実験はまだ行われた形跡がなく、開発が難航しているのではないかとも考えられる。北朝鮮は12年12月12日、3度目に人工衛星打ち上げに成功した。これに使った3段ロケット「銀河3号」(テポドン2改)は固定式発射台で数週間掛けて組み立て、液体燃料を注入して発射するから、攻撃に対して極めて脆弱で、軍用ミサイルと言うよりは人工衛星打ち上げ用の性格が濃いが、打ち上げ成功は北朝鮮のミサイル技術の向上を示すことは明らかだ。

大成功だった平壌宣言

 平壌宣言は、日本が北朝鮮と国交を正常化し、経済協力を行うのと引き替えに第4項で「双方は朝鮮半島の核問題の包括的な解決のため、関連するすべての国際的合意を遵守することを確認した」とした。北朝鮮は「核不拡散条約」(NPT)に1985年12月に加盟し、93年3月にIAEA(国際原子力機構)の査察対象施設を巡る対立で一時脱退を宣言したが、3ヵ月の予告期限切れ寸前に米朝高官対話で脱退を留保し、当時はNPTに残留していた。だから北朝鮮が核問題に関する「すべての国際的合意を遵守」するというのはNPTはもちろん、IAEAの「保障措置協定」(報告、検証などの義務化、北朝鮮は92年に加入)や、韓国との「朝鮮半島非核化共同宣言」(1991年12月)を守り、核兵器開発につながる行為を全て中断することになる内容だった。また北朝鮮が「ミサイル発射のモラトリアム(停止措置)を2003年以降も延長していく意向を表明した」ことも宣言に書き込まれた。

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田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

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