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東京理科大学専門職大学院イノベーションレビュー

なぜ、日本の技術者たちは
「iPhone」を作れないのか?
――技術者発想を断ち切るマーケティング

ニュースの深層で学ぶ技術経営戦略入門
東京理科大学専門職大学院MOT(技術経営専攻)

徳重桃子
【LECTURE Theater 2014 第2回】 2014年11月27日
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ベネフィットを羅針盤に
通念を疑いながら本質に迫る

 「なぜ日本ではiPhoneが作れないのか」という問題意識を起点にスタートした講義。「技術者発想」を断ち切り、ベネフィットに立脚した商品開発をどのように行うのがよいのかについて、ベネフィットの5つの原則を軸に技術者発想に囚われないマーケティング発想を手に入れるための思考法を見てきました。様々な方向からベネフィットを検討するということはすなわち、本質的な課題は何かを考えることにほかなりません。

 電動缶切りを開発してしまう話は、客観的にはなんと愚かなことと思うかもしれません。しかし、今実際に自分が関わっている技術は生活者の本質的なニーズにこたえ、電動缶切りではないと言い切れる技術者はどれだけいるでしょうか。日本の携帯電話やミュージックプレーヤーの多くは、お互いに電動缶切りの切れ味を競い合ってきたかのように見えます。むしろ、生活者が本質的に求めるベネフィットは、溢れる音楽ライブラリーをストレスなく整理したい、あるいは、ガジェットの持ち運びは1台で済ませたい等ではなかったでしょうか。

 だからと言って、日本メーカーでは誰一人として、生活者の本質的なベネフィットに気づいていなかったという訳ではないだろうと思います。例えばソニーは、1960年代にはすでに音楽分野(現ソニー・ミュージック・エンターテイメント)に進出し、また、1989年には映画分野(現ソニーピクチャーズエンターテイメント)への進出を始めており、生活者がエンターテイメントに求める本質的な欲求がわからなかったはずはありません。

 ではそれは何故、iPodやiPhoneとして結実していないのか。それは気づいたベネフィットに対するソリューションを自身の技術、自社の技術、製造、営業でまかなおうとしてしまったからではないでしょうか。また既存の音楽プレーヤー、携帯電話ビジネス領域を侵害してはならないという自制が働き、生活者ベネフィットに沿って進化すべき道が、最善のソリューションから目を背け、次第に生活者が求める本質的なベネフィットからは軌道がそれてしまったのではないでしょうか。

 既に巨大な売り上げと多くの従業員を抱える大企業がこうした自制にかられるのは理解できますが、この制約にとらわれている限り、身軽なベンチャー、狭い専門分野に特化した小粒な企業、自由な資金力のある外資大手らと太刀打ちできないのが現実です。

 今現在提供されているベネフィットは、本質的なベネフィットなのか、もっと上位概念のベネフィットはないのか。今現在提供されているソリューションは、最もいい選択なのか。より魅力的なベネフィットとそれを提供する商品・サービスに到達するためには、「いつもこうやってきた」という通念を疑うことが強く求められています。

 カーネギーメロン大学の金出武雄教授の言をお借りすれば「素人のように考え、玄人として実行する」。企業の中にあって新規事業を立ち上げる場合でも、既存事業の進展を考える場合でも、そして、独立して新たなビジネスを立ち上げる場合でも、時として技術者としての、企業人としての常識が邪魔になります。「通念を疑う」意識を持ってビジネスをベネフィットに沿ってデザインすることが求められるのです。そのためには、ベネフィットとは何かをまず理解することが、第一歩です。

 東京理科大学専門職大学院イノベーション研究科技術経営専攻(MOT)では、第一線の企業技術者たちが、技術経営に不可欠なマーケティング発想を身につけるべく学びを重ねています。教室では初めは自分の通念を破ることに苦慮する学生が多いのですが、面白いことに他の学生が通念に囚われていることを察知できる学生は沢山います。それぞれ専門分野を持つ大人がお互いに素人発想や玄人視点を提供し合うことで、マーケティング発想の力量が高まって行きます。お互いに刺激をしあいながら本質に近づいてゆくアプローチ自体も、今の時代のイノベーションには欠かせないプロセスです。

(制作:ダイヤモンド社クロスメディア事業局)

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いかにして技術から新しい価値を生み出すのか。また、その成果をいかに正当に確保し、配分するのか。東京理科大学専門職大学院のMOT(技術経営専攻)とMIP(知的財産戦略専攻)には、教員・院生を問わず多様な人材が集い、現実の課題に基づく視点から、イノベーションを実現するための叡智が日々蓄積されている。

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